京大病院 難治性の傷 治療材を開発 三洋化成との共同研究 実用化へ
2024.07.16
シルクエラスチンスポンジ(三洋化成提供)
京大医学研究科の形成外科学教室は、三洋化成と共同で、2009年からシルクエラスチンの医療応用について研究している。シルクエラスチンは、天然由来のシルクフィブロインとヒト由来のエラスチンが交互に連結した構造を持つ人工タンパク質。この水溶液を体温付近に加温するとゲル化する(固まる)という特徴を利用し、皮膚の創傷治療材としての開発研究が進められてきた。その中で、慢性創傷にゲルを密着させる動物実験を行ったところ、2週間程度、創傷の治癒に必要な湿潤した環境が維持され、細菌の感染も見られなかったことから、その有効性が示唆されていた。
近年、高齢化や糖尿病患者の増加に伴って、床ずれや糖尿病などが原因となる難治性の慢性創傷が増加している。慢性創傷とは、皮膚が本来持つ再生能力が何らかの形で阻害され、皮膚が欠損したまま治らなくなった傷のこと。傷を覆う被覆材や軟膏といった従来の治療法は効果が限定的なうえに、慢性創傷によって露出した皮下組織から細菌が感染するリスクが高いため、医療現場では感染への抵抗性がある治療法の開発が望まれていた。
グループは、このようなニーズに基づき、創傷に貼付しやすいように加工したシルクエラスチンスポンジを開発した。体液と体温でスポンジが溶解・ゲル化し、創傷面に密着することで、皮膚のもととなる細胞が増殖するための「足場」として機能するという。18年には京大病院で医師主導治験が実施され、その安全性が確認された。
この結果をもとに、有効性を検証するための企業治験が、21年7月から23年5月まで実施された。従来の治療法では回復しなかった慢性創傷(糖尿病性潰瘍等)の患者ら25人を対象に、創傷にスポンジを貼付し、2週間後に外科手術によって傷を閉じることが可能かどうかを評価した。その結果、23人の患者で本治療材の有効性が認められた。また、医師主導治験と同様、有害事象や不具合は確認されず、一貫した安全性が認められた。
三洋化成の樋口章憲社長は記者会見で、本治療材は「効果が非常に高く、副作用も確認されていないという点が大きな特徴」としたうえで、創傷治療材としてだけではなく「半月板や筋肉の再生など様々な疾患に対して効果の確認を進めている」と述べた。また、本治療材を「将来の中核事業を担う製品」と位置づけ、「2030年度には60億円以上の営業利益を獲得することが目標」と期待をにじませた。「FDA(アメリカ食品医薬品局)への認可申請は予定しているか」という質問には、現在準備段階にあることを明かし、「中国や欧州への展開も考えている」と語った。
