複合原子力科学研 難治性膵がん 新薬を開発 ホウ素用いたがん治療 拡大へ
2024.07.01
鈴木実・複合原子力科学研究所教授、近藤夏子・同助教、道上宏之・岡山大学中性子医療研究センター副センター長・准教授らの研究グループは6月26日、難治性の膵がんを標的とした新たな治療薬の開発に成功したと発表した。これまで有効な治療法が確立されていなかった難治性の膵がんを、副作用を最小限に抑えながら治療できると期待される。
近年、放射線療法や免疫療法に次ぐ新たながん治療法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目されている。この手法では、がん細胞が取り込みやすいように設計されたホウ素薬剤を患者に投与し、がん部位に中性子線を照射することで、ホウ素と中性子が反応を起こしてがん細胞を死滅させる。中性子線はホウ素を取り込んだ細胞でのみ反応を起こすため、正常な細胞へのダメージを最小限に抑えることができる。これまで口腔や咽頭などのがんに対する有効性は実証されていたが、従来のホウ素薬剤を取り込みにくい種類のがんも存在することから、新たなホウ素薬剤の開発が望まれていた。
膵がんは▼膵臓が体の深部にあるため発見しにくい▼進行が早く転移しやすい▼抗がん剤が効きにくいといった理由から治療が難しく、がんの中でも特に5年生存率が低いことが知られている。従来、膵がんの発生に伴って特定の物質の血中濃度が増加することを利用し、このマーカー物質濃度の高低によって、治療法を選択していた。しかし、従来の治療法では、マーカー物質の濃度が高い難治性の膵がんの場合、がんの転移や再発を抑えきることが難しかった。
グループは、BNCTによって難治性の膵がんを治療するため、膵がん細胞はどのような物質を取り込みやすいかを遺伝子解析によって分析した。その結果、難治性の膵がん細胞は、従来のホウ素薬剤に含まれていたアミノ酸を取り込みにくい一方、グルコースを取り込みやすいことが明らかになった。これを受けてグループは、グルコースを含むホウ素薬剤「G-BSH」の合成に着手し、創薬に成功した。その後の実験で、▼難治性の膵がん細胞はG-BSHを取り込みやすいこと▼G-BSHを正常な細胞に投与しても毒性を示さないことが確認された。
次にグループは、薬剤が生体内でも有効か調べるため、難治性の膵がんに罹患したマウスにG-BSHを投与し、中性子線を照射する実験を行った。その結果、膵がん腫瘍の体積が顕著に減少したことから、G-BSHのがん治療効果が実証された。さらに、膵がん患者の腹部CTデータを利用した治療シミュレーションにより、開腹手術を行うことで体の深部に存在する膵がん細胞に十分量の中性子線を照射できることが示された。本治療法を発展させればヒトへの臨床応用も可能であることが示唆された格好だ。
グループによれば、本研究は、がん細胞の取り込みやすい物質を遺伝子から分析し、それに合わせたホウ素薬剤を作るという新しい創薬法を示した世界初の試みだという。今後、同様の手法で開発されたホウ素薬剤のラインナップ拡大により、BNCTをさまざまながんに応用できると期待される。
研究成果は、5月9日に国際学術誌「Biomaterials」にオンライン掲載された。
近年、放射線療法や免疫療法に次ぐ新たながん治療法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目されている。この手法では、がん細胞が取り込みやすいように設計されたホウ素薬剤を患者に投与し、がん部位に中性子線を照射することで、ホウ素と中性子が反応を起こしてがん細胞を死滅させる。中性子線はホウ素を取り込んだ細胞でのみ反応を起こすため、正常な細胞へのダメージを最小限に抑えることができる。これまで口腔や咽頭などのがんに対する有効性は実証されていたが、従来のホウ素薬剤を取り込みにくい種類のがんも存在することから、新たなホウ素薬剤の開発が望まれていた。
膵がんは▼膵臓が体の深部にあるため発見しにくい▼進行が早く転移しやすい▼抗がん剤が効きにくいといった理由から治療が難しく、がんの中でも特に5年生存率が低いことが知られている。従来、膵がんの発生に伴って特定の物質の血中濃度が増加することを利用し、このマーカー物質濃度の高低によって、治療法を選択していた。しかし、従来の治療法では、マーカー物質の濃度が高い難治性の膵がんの場合、がんの転移や再発を抑えきることが難しかった。
グループは、BNCTによって難治性の膵がんを治療するため、膵がん細胞はどのような物質を取り込みやすいかを遺伝子解析によって分析した。その結果、難治性の膵がん細胞は、従来のホウ素薬剤に含まれていたアミノ酸を取り込みにくい一方、グルコースを取り込みやすいことが明らかになった。これを受けてグループは、グルコースを含むホウ素薬剤「G-BSH」の合成に着手し、創薬に成功した。その後の実験で、▼難治性の膵がん細胞はG-BSHを取り込みやすいこと▼G-BSHを正常な細胞に投与しても毒性を示さないことが確認された。
次にグループは、薬剤が生体内でも有効か調べるため、難治性の膵がんに罹患したマウスにG-BSHを投与し、中性子線を照射する実験を行った。その結果、膵がん腫瘍の体積が顕著に減少したことから、G-BSHのがん治療効果が実証された。さらに、膵がん患者の腹部CTデータを利用した治療シミュレーションにより、開腹手術を行うことで体の深部に存在する膵がん細胞に十分量の中性子線を照射できることが示された。本治療法を発展させればヒトへの臨床応用も可能であることが示唆された格好だ。
グループによれば、本研究は、がん細胞の取り込みやすい物質を遺伝子から分析し、それに合わせたホウ素薬剤を作るという新しい創薬法を示した世界初の試みだという。今後、同様の手法で開発されたホウ素薬剤のラインナップ拡大により、BNCTをさまざまながんに応用できると期待される。
研究成果は、5月9日に国際学術誌「Biomaterials」にオンライン掲載された。
