文化

〈展示評〉受け継がれる『源氏物語』 京都市歴史資料館特別展

2024.06.01

〈展示評〉受け継がれる『源氏物語』 京都市歴史資料館特別展

「源氏物語車争図屏風」右隻(京都市歴史資料館提供)※禁無断転載

京都市歴史資料館は、4月3日から特別展「京都と源氏物語―受け継がれし物語―」を開催している。『源氏物語』の作者・紫式部を主人公とするNHK大河ドラマ『光る君へ』が放送されている中、『源氏物語』の成立、そして後世の人々による受容を切り口に、館内では古文書・典籍・屏風・出土遺物など、多種多様な100点以上の史資料を展示している。

展示は3部構成であり、まず第1部では物語が記された地・平安京の出土遺物に焦点が当たる。墨書土器や瓦といった展示史料の中でも、9世紀前半の緑釉(りょくゆう)陶器は必見の一品だ。製作から1200年が経ったとは思えぬほど美しい翡翠色を放つ器の底には、当時唐で流行していた花の紋様が描かれている。遣唐使や唐風化政策の影響がうかがえる貴重な史料である。

続いて第2部では『源氏物語』の誕生、そして民衆による受容がテーマとなる。物語の存在が初めて記された『紫式部日記』や『更級日記』などの史料も目を引くが、とりわけ本展の目玉「源氏物語車争図屏風」(江戸時代前期制作)の存在感は格別だ。平安時代後期から近世に至るまで、人々は『源氏物語』の場面を絵巻や屏風に描き、視覚でも楽しもうと試みた。その極致ともいえるこの屏風が描いたのは、賀茂祭(葵祭)での牛車の停車場所を巡り、光源氏の正妻・葵上と恋人・六条御息所の従者同士が争う、『源氏物語』でも屈指の知名度を誇る名場面「車争い」。屏風は左右2隻に分けて展示されており、破壊された六条御息所の牛車、慌てふためく従者たち、そして斎院御禊の行列に参加する光源氏の姿が優雅な筆致で描かれている。本文を片手に、屏風と情景を比べてみるのも面白そうだ。

第3部では江戸時代の史料がまとめて紹介されている。上賀茂神社の神職・賀茂季鷹(かものすえたか)が蒐集した『源氏物語』に関する典籍類は、北村季吟による注釈書『湖月抄』や物語中の歌を集めた『源氏歌』をはじめ、その数の多さに驚かされた。このほか、祇園祭で祇園の芸妓たちが物語にちなんだ仮装をし、練り歩く一幕を描いた絵も。「受け継がれし物語」という特別展の副題通り、江戸時代の民衆もまた『源氏物語』を広く受容し、次世代へと受け継いでいたようだ。

歴史資料館の周辺には、紫式部が物語を著した場所とされる廬山寺、藤原道長の邸宅である土御門第跡や道長が建立した法成寺跡など、紫式部や親交のあった貴族にゆかりのある史跡も多数立地する。特別展の企画を担当した歴史資料館の吉住恭子さんは「『源氏物語』成立の舞台に1番近い資料館はここ。展示を見終わった後、実際に舞台へ行っていただけたら」と、来館者による「聖地巡礼」に期待を寄せた。

特別展は6月23日まで開催される。開館時間は9時から17時までで、入館料は無料、月曜・祝休日は休館。また、吉住さんが展示品を解説するギャラリートークも開催されており、次回は6月12日14時から申込不要・参加費無料で行われる。(陽)

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