インタビュー

研究の現在地 VOL.7 性を操る微生物の謎に挑む 京都大学白眉センター・大学院生命科学研究科 春本敏之 特定助教

2024.06.16

研究の現在地 VOL.7 性を操る微生物の謎に挑む 京都大学白眉センター・大学院生命科学研究科 春本敏之 特定助教

春本特定助教(研究室にて)

私たちヒトを含め、あらゆる生物は細菌などの微生物と共生している。そうした共生微生物の中には、自らの生存や繁殖のために宿主の性質を大きく変えてしまうものも存在する。宿主昆虫の性を操る共生微生物を研究する春本敏之特定助教を訪ね、生殖操作の分子メカニズム研究の最先端についてお話を伺った。(=春本先生の研究室にて。鷲・練)

春本敏之(はるもと・としゆき)京都大学白眉センター・大学院生命科学研究科 特定助教
2005年、神戸大学大学院総合人間科学研究科修士課程修了。2011年、京都大学大学院生命科学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員(産業技術総合研究所生物プロセス研究部門)を経て、2015年よりスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に博士研究員として留学。2019年より現職。昆虫と微生物の共生にみられる、高度かつ不思議な相互作用の仕組みとその進化に興味を持って研究している。

目次

多様な共生のかたち
オスは「袋小路」
宿主オスの死に方を探る
共生細菌の殺し方を探る
生殖操作の機構を比較する
農業や環境衛生に応用も
進化史の解明を目指して


多様な共生のかたち


――昆虫に共生する細菌にはどのような種類があるのでしょうか。

色々な種類があり、なかでもアブラムシに共生するブフネラが有名です。アブラムシは植物の汁(師管液)のみを餌としますが、必要なアミノ酸が不足しておりそれだけでは体を作ったり繁殖したりすることができません。そこで、体内に共生するブフネラという細菌が、アミノ酸を代わりに作って宿主に供給します。アブラムシは栄養分の偏った餌でも生存することができ、ブフネラは体内の安定な環境で生存できるという、相互に利益のある関係です。

こうした栄養供給型の共生がある一方、私は宿主の性を操る共生細菌を研究してきました。このような共生細菌は現時点で少なくとも6種知られています。

共生というと、アブラムシとブフネラのような相利共生がイメージされがちですが、そうとは限りません。細菌が宿主に与える影響とは関係なく、一緒に生きていればそれはすべて共生と言えます。

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オスは「袋小路」


――どのような共生関係に注目して研究をされていますか。

昆虫はショウジョウバエ、共生細菌はスピロプラズマ(※)とボルバキア(※)を主な対象として研究してきました。

私は元々発生遺伝学を専攻しており、ショウジョウバエの発生の研究で博士号を取得しました。その後、手付かずのままになっている面白い研究テーマを探したときに、スピロプラズマが、宿主であるショウジョウバエのオスだけを殺すという現象、いわゆる「オス殺し」を知ったのです。

野外からメスのショウジョウバエを採ってくると、ふつうオスとメスを半分ずつ産みます。しかし、1950年代にオスを産まないメス個体が見つかりました。のちの研究でそのメス個体にはオスだけを殺してしまうスピロプラズマが感染していることがわかりましたが、その仕組みはずっとわかっていませんでした。これを解明したいと思い、オス殺しの研究を始めました。

※スピロプラズマ
モリクテス綱に属する運動性グラム陽性細菌。細胞壁をもたず、特徴的ならせん形態をしている。植物や節足動物に広く感染するが、オス殺しを引き起こすのは一部の昆虫に感染する限られた種である。

※ボルバキア
節足動物やフィラリア線虫に感染するリケッチア目の細胞内共生細菌。節足動物の約半数程に感染しているといわれており、細胞質不和合やオス殺しをはじめとする多彩な生殖操作を引き起こす。

――なぜオスだけを殺すのでしょうか。

オス殺しの意義については色々と推測されています。宿主にとっては、限られた餌資源をメスに割り振るという意義があるのかもしれません。次世代を残すためには、何回でも交配できるオスよりも卵を産むメスの数が重要です。将来オスになる卵を殺し、メスが利用できる資源を増やしたほうが、種としての生存率が上がると考えられます。

また、近交弱勢の回避という可能性も唱えられています。狭い地域に生息する集団で産まれたオスとメスの間で近親交配が起きると、将来的に生存に不利な形質を持つ子が産まれてしまいます。兄弟となるオスを殺しておけば、メスは常に外部の集団のオスと交配することになるので、近交弱勢を抑制することができると考えられます。

一方で、共生細菌にとっては、宿主集団中に感染を広げやすくなるという意義があります。通常、共生細菌は宿主のメス、すなわち卵を介してしか次世代に伝わらないからです。卵には核と大きな細胞質が含まれていますが、精子は形成の過程で細胞質の大部分を失ってしまいます。共生細菌は基本的に宿主の細胞の中の細胞質に分布しているので、オスの精子に入っていると、細胞質ごと捨てられて次世代には伝わりません。感染を拡大したい共生細菌にとっては、オスの数を減らし、そこに浪費されてしまう資源をメスに割り振ったほうが好都合なのでしょう。

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宿主オスの死に方を探る


――オス殺しはどのように起こるのでしょうか。

宿主の中で何が起きて死んでいるのかという側面と、共生細菌がどうやってそれを起こしているのかという側面があります。私はショウジョウバエの分子遺伝学を学んできたので、前者から研究を進めました。

オスが死ぬのは、個体の発生における初期段階、つまり胚の時期です。オスとメスの胚発生をそれぞれ観察したところ、オスの胚だけで過剰なアポトーシス(※)が起きていることがわかりました。ただ、アポトーシスが起こる原因は無数にあるので、それをひとつずつ検証していくのは厄介でした。

※アポトーシス
細胞死のひとつの形態。プログラムされた細胞死とも呼ばれ、適切な個体の発生や生存を維持するために積極的に誘導される。

そこで、胚の中で何が起きているのかを丸ごと調べる手法を取りました。RNA-seq(※)という手法を使い、胚において発現する全ショウジョウバエ遺伝子の量を調べました。感染胚と非感染胚、オスの胚とメスの胚を比較することで、スピロプラズマが感染したときになぜオスの胚だけでアポトーシスが起きるのかがわかるはずです。比較した結果、感染しているオスの胚でのみ発現量が高い遺伝子群が見つかりました。ここで私たちは特に、DNAの二本鎖切断や修復など、DNAの損傷に関わる遺伝子群に着目しました。

※RNA-seq
RNAシーケンスとも呼ばれる。次世代シーケンサーを使用して、生体内のRNA分子の量と存在を網羅的に解析する手法。全遺伝子発現のスナップショットが得られる。

DNAの損傷にも様々ありますが、場合によっては染色体の数がおかしくなったり、がんの原因になったりもします。そこで、修復しきれない損傷が起きた場合、細胞はアポトーシスを起こして自ら死に、個体を正常に保とうとします。RNA-seqの結果は、スピロプラズマが、オスの胚のみでそうしたDNA損傷を誘導し、結果として過剰なアポトーシスを引き起こしていることを示唆していました。

では、なぜオスだけなのでしょうか。この違いは当然、性の違いに起因するはずです。実はショウジョウバエは、ヒトと同じく、オスはXY、メスはXXの性染色体を持ちます。このX染色体の数の違いが重要になります。この違いをそのままにしておくと、X染色体上の遺伝子が、オスではメスの半分しか発現しないことになります。この発現量の差をなくすための仕組みを遺伝子量補償と呼びます。ショウジョウバエの場合、オスの1本しかないX染色体上に特殊なタンパク質の複合体が結合し、遺伝子の発現量を2倍に増やします。このように、オスのX染色体は数だけではなく質としてもメスのX染色体とは異なるのです。

私は以上を考えあわせた結果、「ひょっとすると、スピロプラズマは何らかの方法でこのX染色体の違いを認識し、オスだけに損傷を起こすことができるのではないか?」と考えるようになりました。実際、DNA損傷を可視化する手法を用いて胚を観察したところ、感染オスのX染色体のみに損傷が強く起きていることが確かめられました。一方で、オスの常染色体やメスの染色体ではそのような損傷は観察されませんでした。

DNA損傷を可視化する手法について補足します。DNAはヒストンという糸巻きのようなタンパク質に巻き付いています。二本鎖切断などの損傷が起きると、ある種のヒストンに目印としてリン酸基が付加されます。このリン酸化されたヒストンを認識する抗体を用いて免疫染色(※)を行うことで、損傷の起きた場所を可視化できます。

※免疫染色
抗原抗体反応を利用して細胞や組織内の抗原物質の分布を調べる手法。

ここまでをまとめると、スピロプラズマ感染によって、オスのX染色体だけにDNA損傷が起きてアポトーシスが誘導され、その結果オスの胚だけが死ぬことがわかりました。

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共生細菌の殺し方を探る


――では、共生細菌はどのようにオスだけを殺すのでしょうか。

私が研究を始めた時点では、スピロプラズマという細菌自体ではなく、細菌が分泌する何らかの因子がオスを殺すらしいと推測されているだけで、詳しいことは何もわかっていませんでした。結局私たちはこの原因毒素を見つけたわけですが、それはひとえに運がよかったからだと思います。

当時、様々な系統のショウジョウバエにスピロプラズマを感染させていました。その中から、元々は完全なオス殺しが起きていたにもかかわらず、オスが生まれてくるように変化したハエ系統を偶然見つけたのです。当初は感染しているスピロプラズマが次世代に伝わり損ねた可能性を疑ったのですが、オス殺しが不完全になった系統の体内でもスピロプラズマがしっかり増殖していたことから、そうではないことがわかりました。そこで、元々の系統とオス殺しが弱くなった系統に感染するスピロプラズマのゲノムを比較することにしました。

結果、オス殺しが弱くなった系統に感染するスピロプラズマのプラスミドDNA(※)上のある遺伝子に大きな欠損がみられました。この遺伝子がコードするタンパク質が、鍵を握っているのではないかと考えました。このタンパク質はアンキリンリピート(※)とOTU(※)という2つのドメイン(※)を持っており、どちらも細菌だけでなく真核生物のタンパク質にもよくみられるドメインだったのです。このことは、この細菌タンパク質が真核生物であるショウジョウバエが持つ仕組みに直接干渉しうるということを示唆していました。

※プラスミドDNA
環状の二本鎖DNAで、染色体DNAとは別に保持される遺伝子DNA。

※アンキリンリピート
33アミノ酸からなるドメインのひとつで、繰り返し現れることが多い。タンパク質間相互作用に関わる。真核生物をはじめ、細菌やウイルスが持つタンパク質にもみられる。

※OTU
タンパク質ドメインのひとつ。タンパク質に付加されたユビキチンを外す、脱ユビキチン化に関わる。ショウジョウバエが持つ遺伝子 ovarian tumor がコードするタンパク質で最初に見出された。真核生物だけではなく、細菌やウイルスが持つタンパク質にまで幅広くみられる。

※ドメイン
タンパク質の中で機能を持つ配列や部位のこと。

本当にこのタンパク質がオスだけを殺すのか検証するために、オスとメス両方でこの遺伝子を人工的に発現させる実験を行ったところ、オスだけが死ぬことがわかりました。また、先に説明したオス胚の過剰なアポトーシスや、X染色体への損傷誘導も再現することができました。さらに、このタンパク質に緑色蛍光タンパク質GFPを付加させて宿主の細胞内での分布を確認したところ、見事にオスのX染色体上に強く分布していました。オス殺し現象が発見されてから半世紀以上謎だった原因毒素を、ついに特定することができたのです。私たちはこの新しい細菌タンパク質をSpiroplasma androcidin(スピロプラズマのオス殺し毒素の意)略してSpaid(スペード)と名付けました。

ショウジョウバエに感染したスピロプラズマはSpaidという毒素を作る。これはオスのX染色体の遺伝子量補償機構を認識して選択的に結合し、DNA損傷を起こす。その結果過剰なアポトーシスが誘導され、オスの胚だけが死ぬ。そういった全体像がこれまでの研究で見えてきました。

共生細菌スピロプラズマによるオス殺しの分子メカニズム。(上段)ショウジョウバエと共生細菌スピロプラズマ。右はSpaidタンパク質の構造を模式的に示したもの。(中段)ショウジョウバエは合計4対の染色体を持ち、メスとオスで性染色体の数が異なる(メスはXX、オスはXY)。オスの一本しかないX染色体上には遺伝子量補償複合体が分布している。Spaidはこの遺伝子量補償機構を標的としてオスのX染色体だけに蓄積し、DNA損傷を誘導する(稲妻印)。(下段)スピロプラズマ感染胚の顕微鏡像。明るい点はアポトーシスを起こした細胞を表す。オスのみで過剰なアポトーシスが観察されることに注目(図は春本先生作成)



――SpaidはどうやってDNAの損傷を誘導するのでしょうか。

損傷誘導の詳細は調べているところです。ただ先程述べたDNA損傷の可視化手法では、DNA二本鎖切断と複製ストレスを区別できないことに注意が必要です。細胞は分裂するときにDNAを2倍に複製する必要がありますが、その停止・遅延により発生する複製ストレスによっても先のヒストンのリン酸化が起こります。よって現時点では、Spaidがどちらを引き起こしているのか不明なままです。複製ストレスを可視化できるマーカーも併用することで、どちらなのかを絞り込もうとしています。

一方、Spaidタンパク質の構造を調べてみても、DNA二本鎖切断に関連しそうな、例えばDNA分解酵素などとの構造上の類似性は見出されていません。これまでに明らかになっているSpaidの2つのドメイン、つまりアンキリンリピートとOTUはそれぞれ、タンパク質との相互作用や脱ユビキチン化(※)を介したSpaidの分解抑制にはたらくことが示されており、直接DNA二本鎖切断を誘導するとは考えにくいです(京都大学プレスリリース〝オス殺しのコストパフォーマンスが高いわけ―共生細菌の毒素は自己安定化のしくみをもつ―〟を参照)。そこで現在、これら2つのドメイン以外の別の領域が損傷の誘導に関わる可能性を検証中です。意外なことに、これまでに何のドメイン構造も予想されていなかった領域もオス殺しに必要であることがわかってきており、その詳細を明らかにすることでオス殺しの全体像に迫りたいと考えています。

※脱ユビキチン化
タンパク質に起きる修飾の一種で、76アミノ酸からなる小さなタンパク質であるユビキチンを付加する反応をユビキチン化と呼ぶ。逆にユビキチンを外す反応は脱ユビキチン化と呼ばれる。ユビキチン化は、タンパク質の分解をはじめとする多様な生命現象に関わる。

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生殖操作の機構を比較する


――共生細菌の間で、オス殺しの方法に共通性はあるのでしょうか。

最近、チョウ目昆虫に共生するボルバキアのオス殺し因子・Oscar(オスカル)が発見されました(東京大学・勝間進博士らの研究成果)。興味深いことに、SpaidとOscarは、まったく違うタンパク質ではあるものの、持っているドメインの構成が似ています。Oscarもアンキリンリピートに加え、OTUではないものの脱ユビキチン化に関わるドメインを持ちます。最近になってようやく生殖操作に関わる因子の比較ができるようになってきたので、断言するのはまだ早いですが、ドメインレベルでの共通性はあるのかもしれません。

ところで、これまでオスを殺す微生物としては主に細菌が注目されてきましたが、ある種のウイルスにも昆虫のオスを殺すものがいることが明らかになってきました。現在私たちは、ショウジョウバエに感染するパルティティウイルスが持つ新たなオス殺し因子についても研究を進めています(農研機構・陰山大輔博士および愛媛大学・和多田正義博士との共同研究)。PVMKp1と名付けられたこのウイルス由来オス殺しタンパク質は、Spaidとは違いオスのX染色体に損傷を誘導しません。PVMKp1はいかなる塩基配列・アミノ酸配列とも似ていないばかりか、既知の機能的ドメインも持たないようです。すなわち、オス殺しの分子メカニズムや原因因子の構造にはある程度の共通性があるように見えますが、それは結局まだ狭い範囲でしか見ることができていないからかもしれません。

さらに言うと、共生微生物による生殖操作には、オス殺し以外にも細胞質不和合やメス化、単為生殖が知られています。細胞質不和合では、共生細菌の作用で感染オスの精子が非感染メスの卵と和合できず、胚が死んでしまいます。面白いのは、感染オスの精子であっても感染メスの卵に受精すれば胚が死なずに発生できることです。メス化では、遺伝的なオスがメスに変化して卵を産めるようになります。最後の単為生殖では、オスとの交配を経なくてもメスだけで次世代を残せるようになります。これらの戦略は、メカニズムこそ違いますが「自分たちを増やしてくれる感染メスを増やす」という点で共通しています。これら多彩な生殖操作の原因因子や仕組み、さらにはそれらの間の共通性や多様性など、興味はまだまだ尽きません。

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農業や環境衛生に応用も


――研究で得られた知見を農業などに応用することはできるのでしょうか。

農業分野だと、不和合虫放飼法というものが知られています。これは細胞質不和合を応用した手法で、例えばボルバキア非感染の害虫集団に感染オスを大量に放飼し、胚致死を誘導して根絶する手法です。また、オス殺しや単為生殖は、生物農薬としての天敵昆虫を生産する場合に応用できる可能性があります。ある種のカメムシ目昆虫ではメスがオスよりも餌となる害虫に対する捕食率が高かったり、寄生バチの場合はメスのみが害虫に卵を産みつけて殺したりするので、生物農薬としてオスとメスは同じ価値ではないことがあります。ここでオス殺しや単為生殖を利用できれば、価値のあるメスだけを効率よく選択的に生産できると考えられます。

一方、環境衛生分野では、蚊が媒介するウイルス感染症の根絶にも利用されています(ワールド・モスキート・プログラム)。ボルバキアには、デング熱やジカ熱を引き起こすウイルスの増殖を昆虫体内で抑える能力があることが知られています。ボルバキアに感染させた蚊を環境中に放飼すれば、細胞質不和合によりボルバキア感染が迅速に広がり、結果的にウイルスのヒトへの蔓延を食い止めることができます。こうした試みが世界各地で成果を挙げています。

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進化史の解明を目指して


――研究の難しさや面白さを感じる瞬間はありますか。

共生細菌は扱いにくい研究対象です。大腸菌であれば、培養・増殖させてDNAを抽出してゲノム配列を読んだり、遺伝子を操作したりすることは比較的簡単にできますが、共生細菌ではそうはいきません。宿主の体内という特異な環境に適応しているため、一般的な培地ではそもそも培養できません。Spaidを同定したときは、スピロプラズマを培養するのではなく、ショウジョウバエの体液から直接集めるという地道で原始的な手法を取りました。

難しい、よくわからないという状態でも実験を進めていくと、ある段階でぱっと目の前が明るく開けるような瞬間が訪れます。スピロプラズマによるオス殺しの例だと、遺伝子量補償がオス殺しに関わることは過去の研究で知られてはいましたが、どのように関与するのか具体的なことはわかっていませんでした。しかし、胚のRNA-seq解析やDNA損傷の免疫染色といったデータが揃ってくると、「オスのX染色体だけに損傷を起こすために遺伝子量補償が重要なのだ」ということが見えてきました。また、Spaidを発見してそのX染色体への分布を確認したとき、「だからX染色体だけに損傷を起こせるのか」ということが明確に理解できました。こうした仕組みを実際に目で見て謎を解き明かしたときはとても興奮します。生物は本当によくできているなと。

――今後はどのような研究をしたいですか。

一番はもっと色々なオス殺し因子を見つけたいですね。宿主昆虫・共生微生物の種を問わず新しいものを見つけて、それらの構造やはたらきを比較したいです。その結果何が見えてくるかにとても興味があります。簡単なことではないですが、究極的には、宿主の性を操る分子や仕組みが進化的にどうやって生まれてきたかを知りたいです。

――ありがとうございました。

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