インタビュー

研究の現在地 VOL.14 多様性育むウニの共生系を掘り下げる 京都大学フィールド科学教育研究センター 山守瑠奈 助教

2025.08.01

研究の現在地 VOL.14 多様性育むウニの共生系を掘り下げる 京都大学フィールド科学教育研究センター 山守瑠奈 助教
高級食材としておなじみのウニ。意外にも、ウニの中には磯に巣穴を掘って暮らす種がいる。しかもその巣穴には多くの生き物が「居候」しているのだという。ウニを取り巻く共生系を研究する山守瑠奈助教を訪ね、共生者をはじめとする海洋生物のユニークな生態・進化についてお話を伺った。(=和歌山県白浜町の瀬戸臨海実験所にて。鷲・燕・郷・輝)

山守瑠奈(やまもり・るな)京都大学フィールド科学教育研究センター 瀬戸臨海実験所 助教
埼玉県朝霞市出身。県立川越女子高校を卒業後、京都大学農学部へ入学。2021年、同大学人間・環境学研究科にて博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、同年10月より京都大学瀬戸臨海実験所に助教として着任。

目次

避難所シェルターとしての巣穴
ウニの殻の上に棲む寄生者
宿主範囲を広げた寄生者
食住を陸上に頼る深海生物
里山と里海をつなぐ保全
「かもしれない」を実証する
共生系を勘案した保全へ


避難所シェルターとしての巣穴


――どのような研究を。

ウニのなかには鋭い歯を使って磯の岩盤に穴をあけ、住処としている種がいます。たとえばタワシウニは自ら掘った巣穴にすっぽりと収まり、流れてくる海藻の断片を棘や管足でキャッチして食べる生活をしています。このような穿孔ウニの死後、その巣穴を、普段は岩の割れ目などに棲むナガウニやムラサキウニが二次的に利用することもあります。

穿孔ウニや二次利用ウニの巣穴には、小型の甲殻類や貝類など多くの生き物が共生しています。狭いうえに鋭い棘が飛び出しているウニの巣穴には捕食者である魚類や大型の甲殻類が入り込めないため、共生者は巣穴をシェルターとして利用しているわけです。こうした「住み込み共生」に加え、ウニの体内や体表に寄生する生き物にも興味を持って研究しています。

ウニの体のつくり(写真・図は山守先生提供)



――ウニの巣穴にのみ共生する貝類・ハナザラを研究。きっかけは。

京大農学部に入学し、修士課程から人間・環境学研究科の加藤眞先生の研究室に入りました。加藤先生からハナザラの生態を一緒に研究しようと提案され、ハナザラが多く生息する白浜に調査に来ました。巣穴からウニを引っ張り出し、ついに見つけたハナザラのかわいらしい目にすっかり心を奪われ、研究を始めることにしました。

ハナザラの研究を続けるうちに、ウニの巣穴は多様な生き物の住処として潮間帯の生態系の中で重要な役割を果たしていることがわかってきました。そこから様々なウニの巣穴を調べたり、ウニの中身を見たりして、ウニの寄生・共生者を探す研究に発展していきました。

ハナザラ。殻長は3~8㍉ほど



――ハナザラの研究からわかったことは。

穿孔者のタワシウニ、二次利用者のナガウニとムラサキウニの巣穴において、ハナザラを含む様々な共生者の数や種の構成を調べた結果、穿孔ウニよりも二次利用ウニの巣穴のほうにより多くの、かつ多様な共生者が棲んでいることがわかりました。殻と巣穴の形がぴったり合っている穿孔ウニは、巣穴の壁面との間にあまり隙間がない一方、形が一致しない二次利用ウニの場合は隙間が生まれます。共生者はこの隙間を利用しており、特に笠型の貝殻を持つハナザラは、隙間が広い二次利用ウニの巣穴にしか棲まないことがわかりました。

――ハナザラは何を手がかりにウニを識別しているのですか。

識別方法を調べるために、小さな水槽に特殊なアクリルパイプをはめ、その中にハナザラとウニを入れて実験を行いました。ウニは滑らかな面を嫌う習性があるので、パイプ内の端に置かれたウニは凹凸のある面を探して反対側の端まで移動します。水槽の中央にハナザラを置いておくと、ウニがハナザラの上を通過するわけです。30個体のハナザラを観察したところ、約20個体が二次利用ウニを追いかけた一方で、穿孔ウニを追いかけた個体はいませんでした。化学物質か視覚情報が識別の手掛かりとなっていると予想し、暗室で同様の実験を行ったところ同じ結果が得られたことから、化学物質による識別だと考えられます。

――その後はどのような研究を。

ハナザラの幼生に注目しました。海洋生物の幼生は一般的に海中をプランクトンとして漂いながら、自分の生活に適した環境を感知して着底します。貝類をはじめとする底生生物の成体は長い距離を移動できないので、幼生の着底はその後の運命を左右するとても重要な段階です。たとえば藻食性の貝類は餌となる藻類が生えている場所に着底します。一方、寄生・共生性の貝類は宿主を認識してその体の上などに着底します。ハナザラは藻食性かつ共生性なので、着底する際に藻類とウニのどちらを認識するのか気になりました。

ハナザラの幼生をシャーレの中で孵化させ、穿孔ウニ、二次利用ウニ、ハナザラの成体、ケイ藻を入れたガラスボウルの中で飼育する実験を行ったところ、ハナザラの幼生は、二次利用ウニか同種の成体がいる場合にのみ着底しました。これは藻食性の貝類が宿主を認識して着底する、世界初の例となりました。同種の成体のもとに着底するのは、おそらくその場所がハナザラに適した環境であることが間接的にわかるからだろうと考えています。宿主認識のメカニズムは未解明ですが、ウニ固有の何らかの化学物質を手がかりに認識しているかもしれません。

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ウニの殻の上に棲む寄生者


――ハナザラからウニの研究に。

せっかくフィールドワークをするなら色々な場所に行ってみたいと思い立ち、ウニが多く生息する沖縄に行って調査しました。そこでガンガゼモドキという大きな有毒ウニを観察したところ、普通は見られない虫こぶのような構造(ゴール)が口の周りにあることに気づきました。中身を見てみると、ガンガゼタマエボシというエボシガイの一種が入っていました。この種は、30年ほど前に沖縄のガンガゼという有毒ウニから発見されたエボシガイで、新種として記載されてから1度も見つかっていない種だったので、その生態やゴールの形態を調べました。

まずガンガゼタマエボシがどの分類群に属するかを調べるため、DNA配列を解析したところ、形態による従来の分類とは異なるグループに属することが明らかになりました。

エボシガイの中にはウニ以外にも甲殻類やサンゴ、魚類や漂流物に寄生する種がいます。ガンガゼタマエボシが宿主をウニに転換した過程を調べるため、エボシガイ類の系統樹に種ごとの宿主をプロットしました。結果、ガンガゼタマエボシは甲殻類に共生する仲間から派生してきたことがわかりました。

次にCTスキャンでゴールの構造を解析したところ、ゴールはガンガゼタマエボシが体の一部をウニの殻に突き刺し、肥厚させ形成されることがわかりました。またゴール周辺で、主に歩行に用いる太い一次棘が、有毒で防衛に用いる細い二次棘に置き換わっていることがわかりました。ガンガゼタマエボシは、自分の体の一部を突き刺して何らかの物質を流し込んで、ゴールの形成や棘の配置転換を誘導し、ウニの殻を安全なシェルターとして利用していると考えました。

最後に、ガンガゼタマエボシの食性を調べるため、炭素・窒素安定同位体比解析を行いました。この手法では、質量分析計を用いて、注目する生物試料に含まれる炭素と窒素それぞれの安定同位体の割合を測定します。この割合を試料間で比較することで、生物の食物源を推定できます。

基本的にエボシガイ類は様々な生物や構造物の表面に固着し、殻の隙間から蔓脚を出して海中のプランクトンを絡めとって食べています。記載論文では、ガンガゼタマエボシは蔓脚がとても短いので、餌のプランクトンを集められず、宿主のウニを食べているとされていました。しかし、ガンガゼタマエボシを安定同位体解析にかけたところ、堆積物を食べていることが推定されました。ウニの下側に付着するガンガゼタマエボシは、ウニが歩いたときに巻き上がった堆積物を食べていると考えられます。

以上の結果から、ガンガゼタマエボシは甲殻類からウニに宿主を転換することで、宿主への付着方法と食性を大きく変えたことが明らかになりました。

ガンガゼタマエボシ。全長は5㍉ほど



ウニの殻の上に形成されたゴールとガンガゼタマエボシ(中央)



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宿主範囲を広げた寄生者


――ウニに寄生する生き物はほかにも。

プランクトンの中でも非常に個体数の多いカイアシ類は、一部の種が寄生性で、宿主にくっついたり体内に入ったりします。有毒ウニの寄生者を調べるために、アリストテレスのランタンと呼ばれる口器を割って食道を見たとき、ガンガゼ科のウニから体色の赤いカイアシ類を見つけました。ウニの口器の中に棲むという生態に興味を惹かれ、分類と生態の研究を始めました。カイアシ類の研究者と共同で精査したところ、本種は南半球でしか記録されていない種であることがわかりました。アリストテレスのランタンの中にある、真っ赤なカイアシ類。種火を連想して「ランタンノタネビ」と和名を付けました。

大量のウニを割って寄生率を調べてみると、ランタンノタネビは、ガンガゼ科のウニでは調査した約50個体のウニのうち8割ほどに入っていましたが、別の科のナガウニには全く入っていませんでした。宿主の範囲はガンガゼ科に限定されるようです。

ランタンノタネビに近縁なグループのカイアシ類の分子系統解析からは、魚類に寄生する仲間からランタンノタネビが派生してウニに寄生するようになったことがわかっています。魚類に寄生するグループは特定の宿主1種にしか寄生しない一方、ランタンノタネビはガンガゼ科の様々なウニに寄生していることがわかりました。

現在はランタンノタネビが宿主の範囲を広げた理由を調べています。一番のカギは食べ物だと考えています。魚類寄生性の近縁種は魚類の皮膚を食べており、栄養条件が魚に依存しているため、各々の宿主の栄養条件に合った適応進化を遂げていると推測できます。一方、ランタンノタネビはウニが食べたものを横取りしている可能性があり、かつガンガゼ科のウニはほとんど食性が同じなので、特定の宿主種の栄養条件に適応する必要性はないという仮説が立てられます。安定同位体比解析によってウニとランタンノタネビの食性を調べることで、宿主範囲の広さの理由を解明できるかもしれません。

ランタンノタネビ。体長は1.5~3.5㍉ほど



ウニの口器の中に寄生するランタンノタネビ



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食住を陸上に頼る深海生物


――ウニ以外の研究にも取り組む。

深海の落ち葉を紡ぐゴカイの仲間(多毛類)の研究もしています。以前から分類に興味を持っていたナナテイソメ科という多毛類は、底引き網を使わないと採れない生き物で、サンプルを集めるのに難儀していました。あるとき共同調査をしていた鳥羽水族館の方から、三重の尾鷲沖で採れたクシエライソメというナナテイソメ科の一種のサンプルを送ってもらい、研究を始めました。

ナナテイソメ科は携巣性の多毛類で、糖リン酸の糸を分泌して作った筒状の巣材をミノムシのように被り、巣を引きずって歩きます。一部の種は海底にたまった小石や貝殻、ウニの棘や海綿の骨片などを巣に貼り付けて補強します。一方、クシエライソメは河川から海に流入した落ち葉を紡いで巣を作ります。落ち葉が堆積している深海で、捕食者から身を隠すためのカモフラージュとして機能していると考えています。

落ち葉の種の同定を行ったところ、クシエライソメはタブやバリバリノキといった照葉樹の葉を巣材として使っていました。クシエライソメは沿岸に近い森林からの流入物を巣作りに利用しているようです。また、鳥羽水族館の方による飼育観察から、クシエライソメが落ち葉を食べてもいることがわかりました。深海に住んでいながら巣材も食物も陸上に依存しているという生態について理解することは、陸と海のつながりを研究する上でも重要だと思います。現在は、ノルウェーの研究者と共同でナナテイソメ科の分類の研究に取り組んでいます。

巣材の落ち葉を食べるクシエライソメ
©鳥羽水族館



クシエライソメが落ち葉で紡いだ巣



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里山と里海をつなぐ保全


――ほかのサブワークは。

地域の団体と共同で、環境問題に取り組むこともあります。現在日本各地で、管理が放棄された竹林が拡大し、里山の生態系や生活環境に被害をもたらしています。一方、海に目を向けると、海水温の上昇などさまざまな要因で全国的に海藻が激減しており、生活を海藻に依存する生物に悪影響が及んでいます。これらの問題に対処するため、白浜町のテーマパークのアドベンチャーワールドは3年前、パンダの餌として活用した里山の竹の食べ残しを束ねて海に沈めて、イカの産卵床や底生生物の生息場所として再活用するプロジェクトを開始しました。この竹魚礁に着生する生物のモニタリングや種の同定などの調査に、私も協力しています。

実際、沈めた竹にはアオリイカが卵をよく産みつけることや、竹を多くの底生生物が生活基盤として利用していることがわかりました。この取り組みは、陸上の有機物が河川を通じて海洋に流れ込む自然のプロセスと本質的には同じであることが特長です。里山の考えになぞらえて「里海保全」と呼んでいます。去年主に観察した底生生物とイカに加えて、今年は魚類もしっかり見ようと思い、舞鶴水産実験所と共同で、環境中に浮遊する魚類のDNAを利用してその種類や個体数をモニタリングしています。

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「かもしれない」を実証する


――研究のやりがいは。

私は世界で初めて見つけたことを発表できることよりも、誰もがそうじゃないかなと思っていることをデータで証明できたときに喜びを感じます。そして成果を一般の方々に発信したときに「面白い」と言ってもらえると、研究をしていてよかったと感じます。

アウトリーチ活動としては、4年前『たくましくて美しい ウニと共生生物図鑑』という本を出したほか、実験所での中高生・大学生向けの実習や、学校での講演も行っています。研究の楽しさを伝えるのはもちろん、生き物を見ることの楽しさを伝え、海の生き物を身近に感じてもらいたいと思っています。

――研究の難しさは。

私たちが扱っている種は研究でよく用いられるモデル生物ではないので、研究のインフラを整備するところから始める必要があります。たとえば、遺伝子の解析のために塩基配列を増やすためには、生物種ごとに適切なプライマーと呼ばれる試薬が必要となり、近縁な生物の塩基配列を参考にして設計しなければならないこともあります。そのほか飼育設備なども、生き物ごとに特徴があるので、画一的に考えずにその都度工夫しないといけないのが難しいところです。

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共生系を勘案した保全へ


――今後の研究は。

生き物が好きで研究している者として、生物多様性の保全はとても大事なことだと思っています。私が主に扱っている、多様な生き物のシェルターとして生物多様性を底上げしている「住み込み共生」は、普段目につきにくく、たとえば環境アセスメントでは考慮するのが難しい内容です。寄生・共生系を考慮に入れたより的確な保全計画を立てられるようにするために、これからも共生系の実例を蓄積していきたいです。

――ありがとうございました。

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