インタビュー

研究の現在地VOL.17 地震の「不可視」 を解き明かす 京都大学防災研究所地震災害研究センター 深畑幸俊教授

2026.01.16

研究の現在地VOL.17 地震の「不可視」 を解き明かす 京都大学防災研究所地震災害研究センター 深畑幸俊教授
地震というと、建物の倒壊などの目に見える被害が真っ先に思い浮かぶだろう。いっぽうで、その悲劇をもたらした震源は地下深くにあり、私たちが直接見ることはできない。不可視の領域では一体何が起きているのだろうか。固体地球物理学を専門とし、統計学的な手法を用いてこの問題を研究している深畑幸俊教授を訪ね、具体的な研究方法や、地震にまつわる最新の知見について伺った。(=深畑先生の研究室にて。梅)

深畑幸俊(ふかはた・ゆきとし) 京都大学防災研究所地震災害研究センター教授
1993年、東京大学理学部地球物理学科(当時)卒業。98年、東京大学理学系研究科博士後期課程修了、理学博士。99年、東京大学大学院理学系研究科助手。2008年、京都大学防災研究所准教授。23年より現職。

目次

断層のすべりを推定する
地震に周期性はみられない
東北沖地震が能登半島地震の誘因に
不可視領域をシャープに「見る」
物理学の視点で日本列島を眺める
未知の扉を開く研究


断層のすべりを推定する


――どのような研究をしていますか。

地震波や地殻変動の観測データから、その原因となる断層のすべりなどを統計的に推定する「インバージョン解析」の手法を研究しています。

地震の際に断層がどこでどれだけ滑ったかというのは目に見えません。いっぽうで、それを明らかにしておかないと、断層が滑っていない箇所も分からずじまいで、次にどこで地震が起こりそうか考えることもままなりません。

こういった大問題を解決するために、ほとんどの地球物理学者はインバージョン解析を用いて推定を行っていますが、私はインバージョン解析手法のデベロッパーとして、どのように解析をすればよいかという理論開発をしています。

――インバージョン解析とは具体的にはどのようなものですか。

原因から結果を予測するニュートン力学に対して、結果から原因を推定するのがインバージョン解析です。地震の例でいえば「どこでどういう地震が起きたらどういう地震波が出るか」はニュートン力学でフォワードに予測できます。しかし、実際の地震の場合は原因が不可視なので、フォワードとは反対のインバージョン解析を使い、観測データという結果から原因を推定することになります。

インバージョン解析には、観測データ・理論モデル・確率モデルの3本柱が必須です。観測データとなるのは、地震波のほか、GNSSやSAR衛星で観測した地殻変動です。理論モデルは、ニュートン力学のフォワードな計算に対応します。ここに確率モデルを加えて数式を立て、統計的な推定を行っていきます。

導出されるのは、断層のすべり分布などです。地震の際、テレビでは断層が何メートル滑ったなどと報道されますが、あれはインバージョン解析の結果ですね。

――インバージョン解析の難しさは。

誤差が入り込むことです。様々な所に誤差が入る余地があるので、観測データを素直に解析すると、ある場所では2㍍滑ってそのすぐ横ではマイナス1.5メートル滑るといったような、現実ではありえない非常に暴れた分布が出てくる場合があります。

こういった誤差にどのように対処するかによって、出てくる結果は違ってきます。理論モデル・確率モデルも様々なので、同じ観測データをインバージョン解析しても、人によって答えは千差万別になります。たとえば2011年の東北沖地震のすべり分布は何十通りも示されています。

――誤差の対処方法の違いとは。

おかしな結果になったとき、多くの研究者は「非負の拘束条件」というのをつけて、マイナスの値を無理やりゼロに書き換えます。これはやむを得ない処理ともいえるのですが、結果が出てから手動で調整するのはあまり美しくないですよね。

ありえないマイナスの値が出るのを防ぎつつ、手動で調整もしない手法として「ベイズインバージョン」というやり方があり、私はこちらを用いています。この手法の特色は、「先験的(あらかじめ知られている)情報」を計算に組み込むことにあります。先験的情報とは、たとえば「場はなめらかに変化する」、つまり、正のすべりが起きた周辺では負のすべりは起きにくいといったことなどです。

この概念を導入したときに生じる問題として、先験的情報と観測データをうまく妥協させなければならないということがあります。これを解決してくれるのが「赤池のベイズ情報量基準(ABIC)」です。ABICを使うと、計算過程において、先験的情報を自分の目で判断せずに客観的に重みづけすることができます。ベイズインバージョンでは、観測データと先験的情報がベストミックスされることで、より綺麗で適切と考えられる結果が出てくるのです。

――インバージョン解析の理論開発における成果は。

地震波のインバージョン解析において、「理論モデルにも誤差がある」という考えを世界で初めて取り入れました。

私はベイズインバージョンを用いて、観測データの誤差を考慮しつつ客観的な結果が出るように工夫してきたのですが、どうしてもマイナスの滑りなどの奇妙な分布が出てくる場合があったんです。原因を突き詰めていくと、理論モデルの誤差に行き着きました。

インバージョン解析においては、計算を簡単化するために、地球の表層部分を一様な弾性体(※)だと捉える理論モデルが主流です。しかし、実物は不均質な弾性体なんですよね。強いばねと弱いばねでは同じ力を加えても変形の仕方が違うことからわかるように、「不均質である」というのはとても重要なことなのですが、そういったことがかつてはあまり考慮されていませんでした。

(※)弾性体
ゴムやばねなどの、外力によって変形し、外力が取り除かれると元に戻る性質を持つ物体のこと。

――なぜ考慮されていなかったのですか。

昔はそこまで深く考えていなかったのではないでしょうか。誤差を踏まえて計算するのは手間なので、私も昔は考慮していませんでした。そもそも観測データの誤差が大きければ理論モデルの誤差はあまり重要でないというのもあるでしょう。

理論モデルが現実をそのまま表現できているわけではないというのは研究者たちの共通認識で、より現実に近い精緻な理論モデルを作ろうと努力はしてきたんです。しかし、理論モデルが現実とぴったり一致することはありえません。そこで「理論モデルは完全には正確でないから、その誤りを許容しよう」と発想の転換をしてみたら、うまくいきました。

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地震に周期性はみられない


――インバージョン解析でどのようなことが明らかになりましたか。

最近では2025年7月のカムチャツカ地震を調査しました。今回の地震はマグニチュード8.8〜8.9でしたが、奇妙なのが、1952年にも同じ場所でマグニチュード9級の大地震が起きていたことです。

海溝型地震は、海洋プレートが地球内部に沈み込む際に溜まったひずみが解放されることで発生します。このことから、ひずみの蓄積と解放の繰り返しによって、概ね周期的に地震が発生すると一般的には考えられています。しかし、カムチャツカの場合でいえば、わずか73年で大規模な地震が2度起きており、これはマグニチュード9級の巨大地震の再来間隔としては異例の短さなんです。

カムチャツカ地震の震源では海洋プレートが年に8センチ沈み込むことは既に知られていました。前回の地震から73年の間隔があったことから、ひずみは約6㍍ぶん蓄積していたと考えられます。しかし、解析の結果、今回の地震は9〜12メートルも滑ったことが明らかになりました。この結果は、地震の周期性が実はあてにならないということを強く直接的に示しています。こういったことを受けて、私は地震について「擬周期的」だと主張しています。

――蓄積した歪みの大きさとすべりの大きさに差が生じた原因は。

地震によって、ひずみをどこまで解放するかに個性があるようです。たとえば、100万円貯めたとして全て使い切るのか30万円だけにしておくのか、みたいなことですね。物体に力を加えた際、壊れ具合に差があるように、地震も破壊現象なので偶然性が強いんです。おそらくそういったことが背景にあるのだと考えられます。

――長い期間が空いたら巨大地震が発生するというわけでもないのですか。

直観的には時間が経つごとに地震の規模も大きくなりそうですが、地震の偶然性を鑑みれば、必ずしもそうではないといえるでしょう。

――内陸地震にも同じことがいえますか。

内陸地震でも周期性はかなり弱そうです。内陸の活断層はプレート境界に比べて力の溜まるスピードが遅く、地震の周期は1千年から1万年、あるいはそれ以上といわれます。しかし、2014年に発生した長野県北部の地震は1714年の信濃小谷地震の再来だと考えられていますが、その間は300年しかありません。このことも地震の擬周期性を示しているといえるでしょう。

――地震の予測は難しいということになるのですか。

私は難しいと思っています。それぞれの地震に相当ばらつきがあるので、少なくとも個々の地震を予測するのはなかなか困難なのではないでしょうか。南海トラフ地震の発生確率は向こう30年で60〜90%以上と言われていますが、これも見直す必要があると考えています。

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東北沖地震が能登半島地震の誘因に


――東北沖地震と能登半島地震の関連についても研究している。

能登半島では、2020年から群発地震が発生していました。この地震の直接的な原因は、地下深部から上昇してきた水が断層を滑りやすくしたことです。では、なぜ水が上がってきたかと考えたときに、私は11年の東北沖地震が関連していたとする仮説を唱えています。

日本列島は、海洋プレートの沈み込み運動によって東西に圧縮されています。東北沖地震でひずみが解放されて大陸プレートが東西に伸ばされたことで、その圧縮力が弱まりました。その隙を突いて、下に溜まっていた水が上に来たと思われます。東北沖地震が能登半島地震のトリガーになっていたというわけですね。

とはいえこれは仮説であり、定量的に示す必要があったため、GNSSの観測データをインバージョン解析することにより、東西圧縮が実際どれだけ弱まったかを導出しました。結果は仮説を裏付けるものでした。

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不可視領域をシャープに「見る」


――インバージョン解析の魅力とは。

地震についてはわからないことも多く、解析には様々な不確定要素が付きまといます。曇りガラスを通して対象を見ているような感覚で、どうしても像がぼやけるんですが、うまくやるとぼやけが取れて、像がシャープに見えてくるんです。そういった点が魅力であり、研究のやりがいでもあります。

いっぽうでインバージョン解析は、深く考えず雑にやってしまえば結果が人によってばらついてしまうという問題も抱えています。すべり分布にしても、色々なパターンが示されている現状はちょっと恥ずかしい。デベロッパーとしては、この状況をもう少し何とかしたい、手動で結果を調整せずに客観的に解析してほしいという思いがあります。

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物理学の視点で日本列島を眺める


――インバージョン解析以外にはどのような研究をしていますか。

プレートテクトニクスを基盤に、日本列島がなぜできたのかを研究しています。地質学者は日本列島がどのようにしてできたか、つまりHowに基本的に焦点を当てますが、私は物理屋なので、Whyのほうをターゲットにしています。

たとえば、日本列島は深い海から盛り上がった大山脈だと捉えることができますが、物理学を使うと「なぜ海の底から隆起してきたか」を突き止めることができます。最近だと、関東平野や紀伊山地、四国のくびれの成因を統一的に説明できる理論もできつつあります。

――もともとはテクトニクスのほうに興味があったのですか。

そうですね。もともと登山をやっていて、なぜ山ができるか気になったことが研究の原点です。インバージョン解析はたまたまやったらうまくいったという感じですね(笑)。

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未知の扉を開く研究


――研究の面白さや大変な点は。

世の中の仕組みがどうなっているのかわかると面白いですね。しかも自分がその扉を開けるのですから、感動もひとしおです。

大変なのは、地道に詰めの作業をしなければならないことでしょうか。例えば、良いアイデアを思いついたと思っても、他の研究者が似たようなことを言っていないか調べる必要があります。学問は自分ひとりで進めているわけではないということなのでしょうが、やっぱり手間ではありますね。

――今後の展望は。

大きな問題なのにまだ分かっていないことがあります。たとえば、瀬戸内海の成因はまだはっきりしていません。成因の明らかでない大構造について、もっと考える必要があると思います。

――京都で地震が起こる可能性についてはどう考えていますか。

十分ありえます。京都では南海トラフ地震よりローカルな地震のほうが恐ろしいと思います。家具の固定、水や食料の備蓄など、日ごろからよく言われている備えが肝心ですね。

――阿武山観測所についてはどう考えていますか。

阿武山観測所を維持していくには手間もお金もかかるため、少し大変であるのは事実です。しかし、今では造ることのできない戦前の立派な建物であり、後発の大学では決して持てない貴重な資産ですから、次世代に繋いでいく必要があるでしょう。将来的にはもっと価値が上がっていくと思います。壊してしまっては元も子もありません。

――ありがとうございました。

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