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死体との交尾、サルで初確認 霊長類の死生観の解明に迫る

2024.06.16

京大野生動物研究センターの豊田有・特任研究員、松田一希・教授らの研究グループは5月21日、死亡個体と交尾するサルの様子を観察したと発表した。野生の霊長類で同様の事例が観察されたのは初めてだという。グループは、動物の死生観に迫る極めて貴重なデータであると述べている。

動物行動学における死生学では、動物が死に直面した際にどのように振る舞い、どのような影響を受け、死とどう向き合うのか、という動物の死生観を調べる。霊長類学においても近年注目されている研究領域の一つであり、とりわけ「霊長類は死を理解しているのか」という点が目下の課題とされてきた。霊長類死生学における多くの知見は、研究者が観察中に偶然に死体を発見し、その死亡個体に他個体が接触するという状況を記録したデータから得られてきた。そのような記録は非常に珍しく、学術的にも貴重な知見となっている。これまでの主な記録事例は、死児運搬や、死亡個体への毛繕いなどに限られていた。死児運搬とは、死んだ子どもの亡骸を母親が数日間運び続ける行動で、母親が子どもの死を理解していない可能性や、子どもの死を悼んでいる可能性が提示されてきた。

グループは2015年からタイでベニガオザルの行動観察を続けてきた。23年1月、メスの死体を発見した際、他の個体の反応を観察していたところ、オトナのオスがメスの死体に近づき交尾する様子を記録し、その後3日間で計3頭のオスが死んだメスと交尾する事例を記録した。

オスが死亡個体と交尾した理由は明確でないが、▼交尾行動の手順が通常と同様であった▼乾季で交尾が頻発に行われる時期であった▼交尾が観察されたオスは交尾機会を得にくい社会的順位の低いオスであったことなどから、メスが無抵抗で横たわっている状況がオスの交尾行動を誘発した可能性があると考察した。また、死後3日が経過し腐敗が進んだ死体に対しても交尾をしたことから、グループは、ベニガオザルには「死」の概念がないのではないかと推論した。

一方で、▼メスとの交尾を独占するはずの高順位のオスは、メスの死体とは交尾しなかった▼立ち上がって周囲を確認し、死体の匂いを嗅ぐなど​​​オスが通常の交尾行動の際には見られない行動を示し、死体が「普通ではない」ことを理解できている可能性を示唆する行動も観察されたことから、今回の観察事例のみをもとにベニガオザルに死の概念がないと断言できないと述べている。グループは、過去の事例も含めて、死亡個体と接触した際のサルの行動から、動物の死体との関わり方を引き続き観察・記録し、死生観の理解を深めたいという。

豊田研究員は、今回の事例に直面し「驚愕」しつつも、「『驚愕』という感情は『死』の概念をもつ人間だからこそ喚起された感情であることに考え至」り「動物を観察する研究者の生物学的制約を突きつけられた」とコメントした。その上で、野生動物の生活や、死生観を理解するためには「客観的に、冷静に、彼らの行動を観察し解釈すること」が重要だと指摘した。

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