インタビュー

〈京大知伝〉青春の一コマ 科学の視点で詠む 薬学研究科修士2年 今紺しださん

2024.06.16

〈京大知伝〉青春の一コマ 科学の視点で詠む 薬学研究科修士2年 今紺しださん

作中に何度も登場する鴨川で撮影。いつ足を運んでも流れ続ける鴨川に「安心感を抱いている」

「目に届くころには過去になつてゐる君の光に手を振り返す」。日常や青春のワンシーンに潜む科学や宇宙を31音に込めて表現する。5月には自身初の歌集「晴れ上がり」を出版した。

短歌を詠み始めたきっかけは、中学校の国語の時間。授業で口語の短歌に触れ、自分でも作ってみようと思い立った。「日常の刹那を普遍的なものに昇華して千年以上受け継がれている」。短歌の魅力に引き込まれ、作歌に没頭した。

現在の作風に大きな影響をもたらしたのは、周期表との出会いだ。「ここにある要素で世界が成り立っているのか」と強い衝撃を受けると同時に、「儚く映る世界に横たわる普遍的な秩序」に美しさを感じた。以降、日常に潜む感動や発見を科学的な視点で切り取って短歌にしてきた。「見過ごしてしまうような日常の中にも美しさがあって、それらはすべて宇宙につながる。それを逃さず表現したい」。

心の中にある「感情のグラデーション」を読み手に正確に伝えるため、細かなニュアンスにまでこだわって言葉を選ぶ。31音という制約に苦心することもあるが、「試行錯誤する中で、自分の感情がさらに鮮明になる。充実した時間」と笑ってみせた。悩み抜いた末、複雑な心情をピタリと表現するところに歌作の魅力を感じる。「自分という変換器を通して世界の美しさを表現できたら」。

歌作の転機となったのは、「京大短歌会」への入会だ。様々な作風の仲間と歌評を重ねる中で、単に自分の気持ちを表現するだけではなく、読み手の心情を意識しはじめた。同時に、作品賞への応募にも力を入れてきた。独自性が求められる中でも、読み手の共感が得られる作品づくりを心がけ、自分の短歌に一層の磨きをかける。

様々な賞に応募する中で、「科学的な視点と学生の青春っぽさ」という自分の武器に気がついた。作中には難しい科学用語が並ぶ一方、みずみずしい青春のかけらも多く散りばめられている。理系の歌人は多いが、「若い世代の日常・ポップさ」を絶妙なバランスで切り取るところに自分の強みを見出した。

賞への応募のための技巧的な表現は時に「表現するうえでの不自由」と感じることもある。歌集の出版を機に作品賞への応募を「卒業」する決意をした。今後は自分の目指す短歌を追い求めつつ、近代短歌を始めとして、綿々と続く短歌をさらに学ぶつもりだ。「青春性」はそのままに、短歌の知識量や年齢の変化に伴って、さらに視野を広げた作品づくりを目標にする。

宇宙誕生から38万年後、それまでまっすぐに進むことができず、「霧がかかった」状態だった光は、「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる現象をきっかけに、まっすぐに進み始めた。歌集名の由来と同じく、読み手の光となるような作品を作り続ける。奈良県立奈良高等学校出身。(爽)

◆歌集「晴れ上がり」
今紺さんの短歌を310首掲載している。京大生協ショップルネのほか、楽天ブックスなどオンラインでも購入可能。

最短で海へふたりの足あとは海岸線に下ろす垂線

時よ止まれ西日の街で僕たちは琥珀の中の化石になれる

檸檬より小さき火より始まりし宇宙の中を惑ふ船あり

〈歌集「晴れ上がり」より〉

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