〈京大知伝〉思考繰り返し、描く「一対一」 学部4年 藤
2025.02.16

時計台前にて。本紙の取材で、初めて所属を明かすという
絵を描き始めたことに明確なきっかけはない。幼い頃から描くことが楽しかった。「複雑な構造に惹かれる」という動物や虫を描くことが多いが、その好みも幼少期から変わらない。
画材は小学校で購入した水彩絵の具を、今も変わらず使い続ける。幼少期には、新聞投稿での大賞受賞や、学校で描いた絵がバスに掲示されたことも。「色々な人に褒めてもらえた」から、描くことを続けてこられたと振り返る。
転機はコロナ禍。時間を持て余し、コンペに挑戦した。明確な目標があったわけではない。結果は「学展」で佳作入選、宮若国際芸術トリエンナーレでは、美術大学の学生に並んで奨励賞を受賞した。
絵を人に習ったことがない。美大のような環境にいるわけでもない。描き方のセオリーを知らないからこそ、枠にとらわれずに自分が描きたいものを生み出せる。制作では「考える」ことを大切にしてきた。描きたいテーマが浮かぶと、様々な要素を付け足していく。そこから意図的に情報量を絞ると、残るのが「人と動物や、人と人との一対一の関係」だ。それが得意な土俵だったのだと、作品が溜まってきて気がついた。
宮若国際芸術トリエンナーレでは事前にテーマが与えられたが、自らの得意とする画風へ持ち込む中で思考と制作を繰り返した。完成した作品(=写真)は、応募前から「もらった」と思わせる出来だったという。この作品も、振り返れば「一対一」を描いた作品だった。
大学入学時には「文武芸」という目標を立てた。「文は怪しいけど」と笑うが、学業や部活で困難を乗り越えるたびに、絵の表現力も増していった。「客観視ができるようになって、伝えたいことを込めた絵が描けるようになるんです」
23年4月には、左京区一乗寺の画材専門店・バックス画材で初の個展『ハル』を開催した。個展を通して得られたのは「人」だ。地元の人々に知ってもらえただけではなく、絵を気に入ってくれる画廊のスタッフにも出会った。自分を出さず「絵だけで勝負するのがかっこいい」と考えていたが、「お客さんは描いている人が気になるよ」とアドバイスをくれた。今回の取材も、その助言がきっかけだったという。
イラストの制作も引き受ける。掛かる時間や制作費、送料を考えると決して収益があがるわけではないが、「誰かの家に自分の画が飾られていると考えたら凄く嬉しいなって」。けれどこれからは、小さな紙に描くイラストだけでなくて、大きなキャンバスに「自分」を出せる「アート」も描きたい。そう思わせたきっかけは、高校で漢文を教える恩師の言葉だった。「イラストばかり描いている最近は、昔と比べて絵が丸くないか」と。「確かに小さなイラストに味をしめていました。ちょっと辛辣だけれど、図星ですね」と笑う。
当面の目標は「蝶でテーマを統一した個展」だ。「見えない内部も複雑だけれど、描くのがめちゃくちゃ難しい。だから表現できたときに、美しさがことさらに際立つ」。これまで描いてきた小さなサイズの作品の経験が、今なら活かせると感じている。欲しいのはもちろん、富や名声ではない。「シンプルに楽しいんです」。この気持ちを原動力に、藤は今日も描き続ける。東京都出身。
Instagram:@fujiyanen