ニュース

世界初の木造衛星完成 金属製の環境負荷に一石

2024.06.01

世界初の木造衛星完成 金属製の環境負荷に一石

世界初の木造人工衛星「LignoSat」(京大提供)

京大と住友林業株式会社は5月28日、4年間かけて開発した世界初の木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」の完成を発表した。金属の代わりに木を用いることで、衛星構造を簡素化でき、環境負荷の低減なども見込めるという。同衛星は1辺約10㌢角、重さ約1㌔の超小型で、今秋、宇宙空間に放出される。来春までの運用で、衛星本体のひずみや内部の温度変化のデータを地球に送る。人工衛星の開発は京大初だという。

LignoSatの内部構造。名前はLigno(木)とSatellite(人工衛星)にちなむ(京大提供)



京大と住友林業は2020年、共同研究契約を締結し、「宇宙木材プロジェクト」を開始した。その一環として、木造人工衛星の開発が進められてきた。

小型衛星は運用終了後、大気圏に再突入させて燃やし、宇宙ゴミにならないようにする。金属製の場合、粒子が発生して地球の気候や通信に悪影響を及ぼすおそれがあるが、木であれば燃え尽きるため、木造衛星の普及による負担低減が期待される。

また木には、▼電磁波を通しやすいためアンテナなどの部品を収容でき衛星の構造を簡素化できる▼同じ重さのアルミよりも宇宙放射線に耐性を持つなどの利点がある。

開発チームは22年3月から10か月間、国際宇宙ステーション(ISS)の船外で木を宇宙空間にさらす実験を行った。その結果、温度変化が大きく、宇宙線が飛び交う過酷な環境下でも、割れなどが生じず、木が優れた強度をもつことがわかった。実験に用いたのはヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバの3樹種で、劣化の差は確認できなかったが、加工性の高さなどから衛星にはホオノキ材を使うことが決まった。北海道紋別市にある住友林業の社有林で伐採したものだという。

今回の調査では、衛星本体のひずみや内部の温度変化、宇宙放射線が内部のシステムに与える影響を計測する。また社会活動の一環として、アマチュア無線での交信も行う。衛星は9月、スペースX社のロケットに搭載され、アメリカのケネディ宇宙センターからISSに移送される。その約1か月後に、「きぼう」日本実験棟より宇宙空間に放出される予定となっている。25年春に運用を終える予定だが、2号機の開発も計画中だ。信号を受信するアンテナや管制室は京大構内にある。

衛星本体の組み立てには、凹凸をつけた木材を継ぎ目が見えない形で直角に組み上げる伝統技法「留形隠し蟻組接ぎ」が採用された。ネジは軌道上での100度からマイナス100度までの温度変化で伸縮して木を損傷させうるため、また接着剤は有害ガスの発生が懸念されるため一切使用せず、木工職人の精密な手作業に委ねたのだという。JAXAの仕様に従い、本体の外側には金属製のレールが取り付けられたが、本体との接着やネジどめはなく、「木箱を守るプロテクター」としての役目を果たすに留まる。

LignoSatはネジや接着剤を使わず伝統技法で組み立てられた(京大提供)



衛星は5月、数々の試験を経て、NASAとJAXAの安全審査に合格した。宇宙での木材活用が公式に認められたのは世界初だという。京大と住友林業は、「(審査合格には)持続可能な資源である木の可能性を広げ、更なる木材利用を推進する上で大きな意義がある」と発表した。

宇宙飛行士の経験を持つ、京大大学院総合生存学館の土井隆雄特定教授は記者会見で、「人間では作ることができない結晶構造を自然界が作っている。それが宇宙空間でどうなるのか非常に興味がある」と期待を寄せた。住友林業は、今回の調査で得た知見を木材の劣化抑制技術や新用途の開発に生かすとしている。同社の担当者は記者会見で、「最終的には火星で木造建造物を作りたい」と述べた。

衛星開発には、京大の学生約30名が参加している。開発チームのX(旧ツイッター)によると、参加にあたって事前知識は特に必要なく、宇宙に興味があれば文系の学生でも応募可能だという。ただし今年度の募集は既に終了している。

取材カメラの前でLignoSatを持ち、笑顔を見せた土井特定教授
=5月28日、京大益川ホール

関連記事