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屋久島の植物 小型化の原因を特定 シカの採食圧が関係

2024.05.16

世界遺産・屋久島では、茎や葉の長さが5㌢に満たない「ミニチュア植物」が80種以上存在する。一方で、それらの植物がなぜ島外の同種と比べ極端に小さいサイズに進化したのか、その主原因は明らかではなかった。東北大学農学研究科の高橋大樹特任助教、京都大学人間・環境学研究科の阪口翔太助教、瀬戸口浩彰教授らのグループは、屋久島で見られる植物の小型化は、植物がシカに食べられるのを防ごうとした結果生じたと明らかにした。80種ものミニチュア植物が、草食動物の影響で一斉に小型化した可能性を示したのは、世界で初めてだという。

植物の小型化は世界中で見られ、乾燥・水流・低温などの厳しい環境下では、様々な種類の植物がミニチュア化することが知られている。屋久島では標高1600㍍以上の高標高域でミニチュア植物が分布しており、その進化要因として、土壌の栄養不足、低温、日照不足などが挙げられてきたものの、科学的な検証は行われてこなかった。

グループは▼奈良公園など、シカが高密度に生息する場所では植物が小型化する▼毒を持つ、トゲを備えるなどシカが嫌う特徴を持つ種は、屋久島でも小型化をしていないことから、屋久島に住む草食動物「ヤクシカ」に食べられないように植物が進化したと仮説を立てた。

グループは、ヤクシカが好む植物30種と好まない植物10種を選定し、植物体のサイズを測定した。また、それらと最も近縁な植物40種を収集し、個体の葉の長さを計測した。結果、ヤクシカが好んで食べる植物は、島外の比較種のおよそ半分から10分の1程度にまで小さいことが判明した。一方、シカがあまり口にしない植物では、サイズに大きな違いはなかったという。

さらに、採集地点の気象条件や土壌栄養分なども考慮した解析でも、シカが好む種であるかどうかが、植物の大きさを左右する大きな要因であることが示された。加えて、グループは屋久島に生息する植物と、島外に分布する近縁な種のゲノム情報を解析。結果、多くの種では屋久島が九州や四国と陸続きとなっていた約1万5千年前から11万年前までの間に、近縁種から分岐したことを明らかにした。

これらを踏まえグループは、屋久島のミニチュア植物は、島外に生息する大きなサイズの植物から分岐した後、シカに食べられないための対抗手段としてミニチュア化したと結論付けた。グループはこの要因として▼屋久島では、本州の10倍以上にものぼる密度でヤクシカが生息していること▼屋久島が海によって他地域から隔離され、植物間の遺伝的な交流が少なかったことを挙げている。

グループは今後、異なる種が同様にミニチュア進化を遂げた理由を遺伝的に解析していく予定だという。園芸分野における小型品種の作出などへの応用も期待される。

研究成果は、植物生態学の専門誌 Journal of Ecology で5月9日に発表された。

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