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吉田寮訴訟 寮生の一部勝訴 退去要請前に入寮なら居住可 寮生「話し合い再開願う」 確約書の効力認める

2024.02.16

吉田寮訴訟 寮生の一部勝訴 退去要請前に入寮なら居住可 寮生「話し合い再開願う」 確約書の効力認める

一部勝訴を受け喜ぶ寮生ら=京都地裁前

京大当局が吉田寮現棟と食堂の明け渡しを求めて寮生を提訴した裁判の判決が、16日、京都地裁であった。京都地裁(松山昇平裁判長)は、既に退寮した23名と、京大当局による退去要請後に入寮した3名に対して明け渡しを命じた一方、退去要請前に入寮した14名に対する請求を退けた。訴えられている寮生のひとりは記者会見で、「思いもよらぬ嬉しい判決にびっくりしている」「大学側があらためて考え直し、吉田寮自治会と話し合いを再開してくれることを願っている」と話した。

通告後入寮の3名に明渡命じる


2019年4月の提訴から約5年に及んだ第一審では、建物を占有する権限の有無に関連して、▼吉田寮自治会と京大副学長らが団体交渉のうえ作成・署名した確約書の効力が京大・寮生らに及ぶか▼京大と寮生らの間に在寮契約が成立したか▼代替宿舎提供や建物老朽化を理由に在寮契約を解除できるか、などが争点となっていた。

まず、確約書について、京大は、▼当時の学生部長や副学長が個人として締結した文書だ▼川添信介副学長(当時)は前任者が作成した確約書の承諾を拒否しており現時点で確約書に法的拘束力はない▼寮生個人に確約書の効力は及ばない、などと主張し、寮生側が反論していた。地裁は、▼学生部長や副学長は学生寄宿舎に関する決裁権を有する▼川添副学長は確約書の「引継ぎを拒んだとまでは認められない」として、確約書の効力が現在の京大に及ぶと判断。寮自治会の団体としての継続性も認め、寮自治会を当事者として過去に作成された確約書の効力が、現在の構成員である寮生らに及ぶとした。

つぎに、在寮契約について、京大は、▼寮生は建物の利用者にすぎず契約関係はない▼寮自治会に入寮に関する法的権限を与えたことはない、などと主張。寮生側は、寮自治会が入寮選考を行い、寮を自主管理することに寮自治会と当局が合意し、確約書を作成してきた経緯があるため、寮自治会には入寮選考を行う権限があり、京大と寮生らの間には在寮契約が成立していると反論していた。地裁は、京大当局と寮自治会との間で、入寮に関する一切の手続きを寮自治会が行うことの「合意が成立していた」と認めた。ただし、京大当局が2017年12月19日に「吉田寮生の安全確保についての基本方針」を発表し、同日以降の入寮を認めない方針をとったことに触れ、京大が「管理権を有する以上」、寮自治会に対し認めてきた管理権を「回復することができるというべき」だとして、同日以前に入寮した14名との間の契約成立を認めた一方で、同日以降に入寮した3名との契約成立を認めなかった。

そして、契約解除の可否について、京大は、低廉な寄宿料で大学周辺に居住することにより在学目的を達成することこそ建物の使用目的であり、同額で居住できる代替宿舎の提供をもって、寮生らが建物を使用する必要性は失われたと主張。寮生側は、寮には共同生活を通じた人格的成長という教育目的もあるため、代替宿舎のワンルームマンションでは目的を達成できないと反論していた。地裁は、寮生らが建物が寮自治会によって「自主運営されていることに大きな意味を見出して入寮しており」、京大当局も長年にわたり「自主運営を尊重していた」から、「低廉な寄宿料で居住することのみが在寮契約の目的であったとは認められず」、代替宿舎提供をもって契約の目的が達成されたとはいえないと判断し、京大の主張を退けた。

また、京大が、建物老朽化を理由とした契約解除を主張したのに対し、地裁は、副学長及び寮自治会の名義で作成された平成24年の確約書に、「吉田寮の耐震強度を十分なものとし、寮生の生命・財産を速やかに守るために、吉田寮現棟を補修することが有効な手段であることを認める」と記載されていることなどを理由として、「建物の耐震性能が不足するとしても、これを理由に在寮契約を継続することが著しく困難となったと認めることはできない」と判示し、京大の主張を容れなかった。

さらに、京大は、学外者の無断入居や設備の損壊、職員の点検が妨害されたことによる契約解除を主張していたが、地裁は、証拠が存在しないことや、京大に生じた不利益の小ささなどを挙げ、京大と寮生らの間の「信頼関係が破壊され、在寮契約を継続することが著しく困難になったとまではいえない」としてこれを退けて、京大は「在寮契約を解除することはできない」と結論付けた。

なお、寮生側は、寮自治会と京大当局との間で、建て替えについて訴訟によることなく話し合いに基づき解決する合意がされていたにもかかわらず、京大が提訴したことは権利の濫用であると主張していたが、地裁は、そのような合意を確約書から読み取ることはできないなどとして、これを退けた。

また京大は、判決確定前に退去の強制執行が可能になる「仮執行宣言」を付するよう求めていたが、地裁は「必要性を認めない」として、入寮中の3名に対する仮執行を認めなかった。既に退寮した者に対する仮執行は認めたが、寮生側の森田基彦弁護士によると、既に退去しているので「実質的意味がない」という。

判決前、京都地裁に向かう寮生ら


自らも学生時代に吉田寮に住んでいたという森田弁護士は、記者会見や、判決後に京大文学部第三講義室で行われた報告集会で、判決を「本当に画期的」「我々の主張が8割方認められた」と評価した。ただし、「一部敗訴の部分は諸手を挙げて喜べない」としたほか、「契約解除は認められないとしつつ、入寮募集停止は一方的にできるというのはアンバランス」と指摘して、「控訴審では、そこをうまく表現していくことになる」と述べた。確約書については、「当初、法的拘束力を有する文書としては微妙だと考えていた」と明かしたうえで、「結果として確約書が効いてきた」ことを考えると、「先代の吉田寮生、今に至る吉田寮生、それを支援する皆さんの力がここに結実したのではないか」と語った。

人間・環境学研究科の佐藤公美教授は、「今日の勝利は対話の勝利の一言に尽きる」と総括し、確約書の効力が認められたことは「合意を作るプロセスに一定の価値を与えられたということ」だと指摘した。また、自らも元寮生だと明かしたうえで、「私たちは場所についての記憶をすごく大切にしている。それをワンルームで取り換えろと言われても、そこにそれはない。こうしたことが裁判所に居た人にも伝わって、それが専門家の言葉で、法の言葉でおとし込まれた結果がこれなら画期的だ」とスピーチした。

報告集会には、東北大学日就(にっしゅう)寮や一橋大学中和寮の学生も駆け付けた。日就寮の学生は、「ここで吉田寮が負けたら次は私たちだという心持ちがあった」と明かし、「吉田寮でついたはずみをいかに全国に拡大させていくか、そういうフェーズになったと思う」と述べた。

判決言渡しにあたっては、75枚の傍聴券を求めて200人以上(寮発表)が列を作った。松山裁判長は法廷で約15分間、判決主文の言渡しに加え、主文の意味と判断理由を説明し、閉廷時は傍聴席から拍手が鳴り響いた。

今後の見通しについて、寮生は記者会見で、「寮に持ち帰って決めなければならないが、話し合いを求めていくのに変わりはないと思う」と述べた。別の寮生は報告集会で、「当局には控訴をやめてもらいたい」と話した。

寮生側の森田弁護士は記者会見で、「被告の皆さんとの話し合いのうえで決めることだが、在寮しているのに敗訴している3人は控訴することになるだろう」と述べた。京大広報課は16日、判決の受け止めと控訴の方針について、「判決内容の詳細を確認しているところであり、コメントを差し控える」と本紙の取材に回答した。

寮自治会は、2015年建設の新棟に限り入寮募集を続けている。

判決の内容(編集部作成)


判決後に記者会見する寮生ら



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