文化

緩急のついた短編アニメ映画 『大室家 dear sisters』

2024.02.16

昨今のアニメーション映画には、どうしても中短編作品への注目が集まりにくい状況がある。中短編アニメ映画は確かに作られ、全国のシネコンで上映されている。だが、封切りされても一般の話題には上がらず、そのまま2週間後に終映してしまうような作品がやたらと目立つのだ。

その一方で、2月公開の『大室家 dear sisters』は例外的な評判を呼んでいた。2010年代のいわゆる百合ブームの嚆矢となった漫画『ゆるゆり』のスピンオフ作品、『大室家』のアニメ化作品だ。『ゆるゆり』シリーズ5年ぶりの映像化でもあり、多くのファンの間で期待感が高まっていた。

作中では、高校生、中学生、小学生からなる3姉妹が、家族や友人と過ごすドタバタな日常が描かれる。姉妹の喧嘩や友達との掛け合いなど、3姉妹の日常は微笑ましく、ずっと見ていられるような気分になる。その意味ではきわめて日常系的な作品であり、「物語が存在しない」ようにも見える。

しかし、長女の大室撫子はある重大な秘密を抱えていた。それは、彼女の同性の親友3人のうち1人が、実は自分の恋人であるということ。それが誰かは作中で明示されない。お互いの関係を知っているのは本人たちのみであり、外では他の親友と変わらない態度で接している。もしこの関係が知られたら、今の日常は変わってしまうかもしれない――。

その緊張感が作品の良いスパイスとなっている。姉妹のハートフルな交流や、彼女らの友達との日常のなかで、ふとアクセントとして「秘められた恋」のモチーフが入り込んでくる。40分の限られた上映時間だが、緊張と弛緩の繰り返しが心地よく、満足感のある鑑賞体験だった。

また、恋愛を隠さなければいけない理由として「同性同士だから」という安直な提示をしていない点も評価したい。恋愛も大事だが、撫子やその恋人には大切な親友グループがある。友達との関係を壊したくないからこそ、彼女たちは自分たちだけの秘密を作りあげているのだろう。昨今、これまで百合やBLとしてジャンル分けされてきた作品を「消費」することの是非が再考されているが、実のところ本作は、娯楽性の高い作品がいかにインクルーシブたりうるか考える手がかりになるかもしれない。

『大室家 dear sisters』は1本の映画として完結しているが、その続編となる『大室家 dear friends』の公開も6月に予定されている。さらにパワーアップしたクオリティで鑑賞できることを楽しみにしたい。(涼)

◆映画情報
監督 龍輪直征
公開 2024年2月2日
上映時間 43分

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