インタビュー

〈京大知伝〉チャリで「非日常」世界へ 工学部建築学科2年 田中俊乃介さん

2024.02.16

〈京大知伝〉チャリで「非日常」世界へ 工学部建築学科2年 田中俊乃介さん

今月は東北(秋田県の乳頭温泉郷)でツーリングを行った(本人提供)

ただ自転車を漕いで行きたい所に向かう。中学時代にロードバイクを買うなど、サイクリングには昔から興味があった。昨年の秋からは副将を務める。

入部後、色々な場所へ自転車で旅行する「ツーリング」でサイクリングにもっとハマった。去年の夏にはモンゴルで1カ月に渡るツーリングを行った。500㌔以上離れた都市を自転車で目指す中で、困難にも直面した。入部間もない1回生を引き連れることは想定以上に大変だった。また、飛行機での運搬中に自転車が壊れてしまい、5日間ウランバートルで足踏みするアクシデントにも遭遇した。

だが「日本ではできない経験」が辛さを消し去った。羊や馬がいる中、モンゴルの雄大な草原をチャリで疾走することは想定以上に爽快だった。峠を越えて向こう側の景色が見えた時には思わず喜びを覚えた。「きっと祖先も同じ景色を見て、同じ感情に浸ったのだろう」と感情を揺さぶられた。

京大サイクリング部には、自転車を「担ぐ」概念が存在する。自転車の真ん中にある三角形の空洞に肩を入れ、字面通り自転車を担いで歩くことを「担ぐ」という。この「担ぎ」でサイクリングの幅は広がった。自転車に乗れない場所でも担いで進むことが出来るからだ。ただ、その負担は大きい。実際、田中さんが担ぐ時には、チャリ本体の重さ約13㌔にバッグの重さ約15㌔を加えた、約28㌔の負担がかかるという。

担がなければ見れない景色も存在する。2022年9月、長野県にある森林鉄道の廃線跡をツーリングした。藪の生い茂る20㌔程の道のりを、自転車を担いだり押したりして進んだ先に、トンネルがあった。壁がボロボロで、ぶつかると何かがパラパラ落ちてくるトンネルを進む中でも、「人が普段行かない所を探検している」楽しさは忘れなかった。トンネルを抜け舗装路に出ると、安堵と共に生を実感した。「小回りの利く自転車だからこそできた探索」と振り返った。

鞍馬の先にある全長5・84㌔の花脊峠を上る速さを競う「タイムトライアル」では、自身2回目の参加で22分8秒を記録した。部の平均より速く、最初の記録を2分も縮めることができた。事前に峠に数回行って調整した上で、本番は「ずっと同じ出力で漕ぎ続けて最後に速度を上げる」ペース配分だけに注意した。ただ、それから1年、自己タイムを更新出来ていない。チャンスは年2回のみ。次回は7月に開催予定だ。「自転車を担いだり、重い荷物を背負ってトレーニングすることで、22分を切りたい」。

サイクリング部で仲間と旅をしたり競ったりして、自転車を漕ぐ楽しさに改めて気付いた。「大学で楽しいことを見つけて打ち込んでもらえれば。チャリ部に来てくれれば保証します」と笑みをこぼした。麻布高校(東京都)出身。(郷)

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