〈京大知伝〉「人を描く」苦しみと対峙して 教育学部1年 朝霧咲さん
2023.11.16
朝霧さんが小説を書き始めたのは中学3年生のころ。「中学生って大体、家と学校という2つの世界だけじゃないですか。そこに、もう一つ軸が欲しかったんです」。バレー部を引退した後、力試しのような感覚で新人賞を目指した。受賞までには3作を応募した。数ある新人賞の中で同賞を選んだ決め手は「ホームページが分かりやすくて。あと、ウェブ応募ができたのも理由です」。雑誌『小説現代』は、受賞までほとんど手に取ったことがなかった。
転機が訪れたのは高校1年生のとき。2作目に執筆した作品が、同賞の最終選考に残った。「そのときにお話いただいた編集さんにおだてられた結果、見事に調子に乗っちゃって」。高校2年生のときに3作目を執筆、応募したところ受賞に至った。
ただ、受賞を知ったのは高校3年生のとき。受験勉強まっただ中の時期だった。勉強に集中するため執筆は中断し「パソコンも開かないようにしていた」という朝霧さんは、「受賞を素直に喜べるようになったのは大学に入ってから」と明かす。
受賞作『どうしようもなく辛かったよ』は、バレー部に所属する女子中学生7人の青春群像劇だ。全5章から構成されるが、語り手はそれぞれの章で異なる。執筆時には「それぞれのキャラクターを、1人の人間として描く」ことに苦労した。「自分でも書きながら『この子はイタいな、キツいな』と思うこともありますが、やっぱりみんな作者自身とは異なる価値観で生きているので、書きたくないことも書く必要があります。そこが大変ですね」と語る。
朝霧さんはいま、教育学部の1年生。文芸系のサークルには所属せず、執筆は1人で行っている。「実は、自分が作家であることは積極的には公言していません。クラスやサークルの友達も知らないはずです。隠しているわけではないんですが、言う機会がなくて」とはにかんだ。次作の刊行を目指し、今日もキーボードを叩く。愛知県立一宮高校出身。(涼)