インタビュー

〈京大知伝〉「新たな価値」を共に創る 法学部4年 渡部遥斗さん

2023.09.16

〈京大知伝〉「新たな価値」を共に創る 法学部4年 渡部遥斗さん

法学部の授業が行われる法経本館をバックに写る渡部さん。京大INCとの出会いは、サークルの顧問を務める教授が授業中に紹介したことがきっかけ

「相手の出方を予想し、法律や問題の場面を解釈し最適な策を考える。それがピタリとハマった瞬間がたまらない」。企業間の交渉や仲裁を競技として行う大学生がいる。第21回大学対抗コンペティションで仲裁の部、交渉の部で1位を獲得し、国内外の27チームの頂点に立った京大INC。代表として2年にわたってサークルを率いた。

大会では、架空の企業の一員となって▼両社間の契約上の紛争などを解決すべく論を交わす模擬仲裁▼両社間で共同事業を行う際の進め方などをすり合わせる模擬交渉、の2種類を行う。

仲裁は法学にも似ているように思えるが、法学が法規範(大前提)に事実(小前提)を当てはめ、論理的な結論を出す一方、模擬仲裁は、「自分たちに正義あり」という前提で、法学とは逆のプロセスで論を組み立てる。自分にとって不利な事実も、自らの立場を明確にして説得的に論じる必要がある。

競技を始めた当初、模擬交渉に対しては「相手を欺くもの」とマイナスのイメージを抱いていた。転機は2回生時の東大戦。後の優勝チームとの弁論に「どんなふうに言い負かされるのか」と怯えていたが、対戦相手の思いを汲んだ円滑なコミュニケーションで「最適な提案」を受けた。「交渉は『競争』ではなく『共創』。自分と相手の強みをうまくかけあわせ、価値を最大化することが醍醐味」。交渉に対する誤解を解いて、さらに競技にのめり込んだ。

論を戦わせる前提として、相手に自分たちの主張を理解してもらう必要がある。各論点に対する理由づけ、導く結論などの論理構造を「とにかく明確化」することを心がけた。「共創」のため、自社が譲れない箇所、譲歩できる箇所をはっきりさせることも重要だ。相手に絶対に伝えたい論点を取捨選択し「主張の7割が伝われば十分」と心づもりをした。

競技とはいえ、自社の命運や社員たちの生活も自身の交渉次第だ。「競争」心をなくし、相手の提案を易々と受け入れるわけにはいかない。逆に、自社の利益にかなう提案を受けたときにはそれを潔く受け入れることも必要だ。「何も決まらなければ会議自体に意味がない」。引くのか、粘るのか。妥協ではなく、双方が納得した上で合意を形成するところが難しい。

2回生時に代表になったが、全員の仕事量などを鑑みて、準備の多くを一人で進めた。大会は世界9位に終わり、自身も就活やゼミなど、多忙になるにつれ周囲を巻き込む必要性を実感。交渉それ自体を楽しむことが、周囲のモチベーションにつながると考え、周囲を指導しつつも仲間同士の「ヨコ」のコミュニケーションを意識した。昨年度の大会ではベストチームワーク賞も獲得し、「仲間を巻き込んだから得られた勝利」と振り返った。

大会に向け、書面など入念に準備を重ねるものの、競技中に想定外の出来事が起こることもある。とっさの判断や、論の「押し引き」の見極めには場数を要する。現在は自身の経験を後輩たちに伝え、影からその活躍を見守る。「考えて議論する楽しさを伝え、自分自身も成長していけたら」。広島市立基町高校出身。(爽)

大学対抗コンペティション優勝後の1枚(写真は渡部さん提供)


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