企画

京都大学新聞社 編集員が綴る 大学受験〔体験記〕2024

2024.01.16

この紙面を開いた受験生の諸君。受験が間近に迫り、ラストスパートをかけていることと思う。その胸中は様々だろう。春からの大学生活を夢見て勉強に一層励む者もいれば、共通テストの結果に嘆いて勉強に対するやる気が出ない者もいるかもしれない。

ここでは、受験生に向け、応援の意味を込めて4名の編集員が体験談を綴っている。様々な思いを抱く残り1か月。勉強の合間、紙面に目を落とし、かつての受験生の日常を覗いてみてはどうだろうか。残りの受験生活を前向きに過ごす一助となれば幸いだ。(編集部)

目次

本番は慌てず淡々と
受験を振り返って
受験前は普段通りに
「ライバル」との受験


本番は慌てず淡々と


2年前、石川県で雪が降り積もる中、筆者は入試改革後2回目となる共通テストを受けることになった。受験会場だった金沢大学角間キャンパスは山の奥にあり、市街地から車で30分はかかる。下見の時には、屋根や地面、駐車場の横といった、雪かきされた場所以外すべてのところに雪が10センチ以上積もっていた。遠くの山並みの杉の梢にも雪がかかり、キャンパス内外はすべて銀世界であった。初陣を前に、張り詰めた空気は心地がよかった。

翌朝会場に着くと、受験生のために朝から開放される食堂に行って待機した。電気はついておらず、しかも人でいっぱいだったが、馴染みのある顔に何人も会えて緊張が少しほぐれた。文系科目は得意だったので、1日目はストレスをあまり感じずに走り切れた。最後まで終わると一気に疲労を感じ、迎えに来た親の車で、トンガでの火山噴火や東大での受験生襲撃事件のニュースをラジオで聞きながら、1日を終えての感想を話した。この日はあまり勉強せずに寝た。

2日目の朝から、トラブルが続いた。激励にやってきた先生に会えて嬉しすぎたせいか、先生の真ん前にずっこけてしまったのだ。受験生としては最悪のスタートだった。おまけにその日には一番苦手な数学がある。センター試験を10年分解いて勘を磨き、戦術もしっかり立てたつもりだが、やはり緊張する。数IAが始まると、第1問から、立ててきた戦術は崩れた。第1問は全部解き切る計画だったが、最後まで解けずに時間配分上のタイムリミットが来た。第2問に移っても、捨てる予定の最後の小問のはるか前から解けなくなった。太郎や花子のイラストに腹を立てながら、解けるところをできるだけ拾う戦略に出た。が、ページを行き来するだけで一向に進まない。いつの間にか時間切れとなった。

昼休みには、テストが終わるまで禁物とされるにもかかわらず、SNSを開いてしまった。すると、数IAがすでにトレンドに上がっており、全国の受験生が苦しみの声を上げていたのがわかった。動揺を抑えつつ数IIBを解き終え、家に帰って自己採点をすると、数IAはもちろん、数IIBや国語も今までで最悪の出来だった。ショックでしょんぼりしてしまった。

しかし、点数を共通テストリサーチに出してみると、想像していたほど判定は悪くはなく、全国の受験生も同様に苦戦したようだ。「なんだ」とホッとして、気を取り直して2次試験に向けてのラストスパートに集中できた。最終的には京大に合格できたので結果オーライである。

とりとめのない話となってしまったが、メッセージを一言でまとめると、本番で何が起きても、最後は思ったよりうまくいくということだ。交通や持ち物のトラブルが起きても、問題が思った以上に難しくても、みんなが同じように困っていると思えばいい。そして、今まで積み重ねてきたものは多少のトラブルで揺るがされるものではない。頑張れ、受験生。(唐)

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受験を振り返って


2年連続で共通テストを受けた自分にとって待ち望んだ「お正月」なのに、まさかこんなことに頭を悩ませるとは思わなかった。たった1年前のことなのに、受験体験記として書けるようなことがほとんど思い出せないのだ。

思い浮かぶのは、真冬の灰色のキャンパスと共通テスト2日目の試験後に浪人仲間で集まったファミレスの光景くらい。当日の問題なんてまったく覚えていない。別に、テストが余裕だったというような自慢がしたいわけではない。幸い大きなトラブルがなかったのは事実だが、緊張や不安は間違いなくあった。直前期は、共通テストで人生が決まるくらいに思っていた。それなのにその日のことがまったく思い出せない。

年末に浪人時代の友人と集まる機会があった。第1志望に受かった人もそうでなかった人もいた。自意識過剰かもしれないが、会うことに気まずさを感じる人もいた。しかし、そんなことは杞憂だった。居酒屋の席は一瞬で予備校の廊下で立ち話をしていたあの雰囲気にもどった。それぞれ近況を報告したり、予備校の講師のものまねをしたり。当時の情景が鮮明に蘇ってきた。

きっと、受験という行事を過ごした場所が大切だったのだろうと思う。学校でも予備校でも家でもいいし、誰かがいてもいなくてもいいと思う。自分にとっては、受験勉強でできたつながりや予備校で味わった何とも言えない空気感が何より価値のあるものだった。試験自体はその結果に過ぎないのかもしれない。

今、自分は京大、そして京大新聞という素敵な場所にいると感じる。しかし、その場所が受験の結果として得られたものであることもまた事実だ。それぞれが素敵な場所に行きつけるように、とりあえず今は目の前の試験に向かってほしい。(省)

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受験前は普段通りに


受験前日はどのように時間を使えばよいだろう。多くの人は会場の下見をしたり、最後の追い込みをしたりするだろう。しかし、受験への不安が高まって何も手につかなくなってしまうこともある。そんなときどうしたらよいのか。思い切って寝てしまいたいが、初めて泊まる場所ではなかなか寝付けないこともあろう。そこで、私の試験前日の過ごし方を参考にしてもらえれば幸いだ。

2次試験前日、九州からはるばる上洛したが、宿泊予定のホテルがなかなか見つからず、ひたすら歩き回った後に会場の下見へ向かった。出町柳駅が最寄り駅とは聞いていたが、それを疑いたくなるほどに試験会場まで遠かった。心の余裕もない受験生にすり寄ってくる住宅案内のスタッフをかわし、歩くこと20分。疲れ果てて会場に着いたものの、いきなり心を折られた。今思えば、初めて同じ学部を目指すライバルの顔を見た瞬間だった。見渡せば、癖の強い関西弁をしゃべり、試験への不安どころか威圧さえ感じさせる受験生ばかりで圧倒されてしまった。自分たちのホームグラウンドであるかのように、大学の中を闊歩していている彼らと対照的に、初めて京大に来た母と自分は肩身の狭い思いをして歩いたのを覚えている。自信に満ち溢れたライバルたちに囲まれて翌日試験を受けるなんて考えられなかった。

宿泊先へ戻ったが、自信を失った自分はなにも手につかなくなってしまった。何かしら食べて体力をつけようと思ったが食欲もない。そこで、少しでも不安を取り除きたかった私は、まずラインで友人に連絡を取った。すると、「明日から本番だと思うけど落ち着いて頑張ってきてね!九州から応援してます」と返信が来た。最後には「返信不要!」と書かれていた。いつもそばで支えてくれた友人からの応援はもちろん、最後の気遣いに目頭が熱くなった。少し緊張が和らいだ後は、当時よく見ていた「あたしンち」を部屋のテレビで流した。同じ高校生同士の他愛もない会話はもちろん、理不尽な言動にさえ、その時自分に欠乏していた日常的な雰囲気を感じて心が癒された。そうして、不安を忘れた自分はやっと眠りにつくことができた。

受験前日は新しい環境に踏み入れるのでどうしても緊張してしまう。遠方からはるばるやってきた受験生はなおさらであろう。不安になって寂しくなったら友達にラインをする。見たいアニメを見る。そんなふうに受験前日は普段通りの過ごし方をしてみるのはどうだろうか。(輝)

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「ライバル」との受験


高校の先生が集会で毎回言っていた言葉がある。「受験は個人戦でもあり、団体戦でもある」。高校生の頃は軽く聞き流していたこの言葉。大学受験から1年が過ぎようとしている今考えてみると、実によく受験を表現した言葉だと感じる。というのも、私の受験はいわゆる「ライバル」との二人三脚のようなものだったからだ。

そもそも彼の影響で私は京大を志望するようになった。いや、志望することが出来た。3人に1人が北大に進学すると言われる母校で、テストの学年順位も最高で30番台の私が京大を志望するとは言いづらかった。しかし、似た境遇にいた彼はそんなことを気にせず、京大を目指すと周囲に語っていた。カッコいいその姿に魅かれ、私も彼のように目指そうと思えた。

彼の存在があったからこそ、「負けたくない」その一心でより勉強に励めた。ただ、正直な話、彼をよく思えずにいたことも多かった。母校で京大の文系を志望していたのは私と彼の2人だけ。「校内順位2位」という秋の京大模試の結果は彼に負けたことを意味する。「勝ち申した」という彼の口癖を、いつしか耳障りに思うようになっていた。また、2人まとめて指導してもらった日本史の添削では常に比較された。しかも決まっていつも彼の方が良く書けていた。彼は褒められ、私は叱られる。そんな状況が続いた上に、成績も伸び悩み不満が溜まった。挙句の果て、他の友達と放課後に訪れたラーメン屋で愚痴をこぼしまくった。「あんな奴落ちちまえばいい」。言い過ぎたとは思ったが、撤回はしなかった。

だが、ある秋の日、こう考えるようになった。「私は私、彼は彼だ。受験当日まであと数か月しかないんだから、とりあえず全力を尽くして勉強しよう。それでもダメだったら仕方ない」。そう考えると気が楽になり、彼に対して憎悪を抱かなくなった。模試の成績はことごとく振るわずにC判定やD判定ばかりだったが、ひたすら勉強し続けた。そして迎えた共通テスト。自己最高点を百点以上更新し、彼にも点数で勝った。

2次試験は彼と2人で行った。本番であまり緊張せずに全力を出し切れたのは、会場まで彼と他愛のない会話をしていたからかもしれない。試験後には嵐山の温泉につかり、ホテルに帰ってからは夜通し漫画を読み漁った。2人での受験旅行は本当に楽しかった。

今、私は京大に、彼は北大に通っている。年末年始に帰省して久々に会った元「ライバル」に、失礼とは承知でひとつ質問してみた。京大に落ちたことを悔やむことはあるのかと。「大学生活は楽しいし、悔やみはしないかな」。あっさりそう答えた友達の姿はやはりカッコよかった。

さて、読者の中には「ライバル」がいる受験生もいるかもしれない。あまり「ライバル」と自分を比べずに、マイペースに勉強を続けて欲しい。そうすれば「ライバル」といい関係性を築くことが出来る気がする。大丈夫。この長文を最後まで読めたのだから、少なくとも国語の読解力は高いはずだ。春に「サクラサク」ように祈っている。(郷)

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