文化

戦前の上流階級 生き生きと描く 『窓ぎわのトットちゃん』

2024.01.16

『窓ぎわのトットちゃん』という書名を聞けば、誰しも黒柳徹子の風貌や『徹子の部屋』の背景が思い浮かぶことだろう。1981年に講談社から発売された同書は、2023年12月の時点で全世界発行2500万部を誇るベストセラーだ。

同作が『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』のシンエイ動画からアニメ映画化されると聞いて、期待感を持って劇場へ足を運んだ。『トットちゃん』初の映像化だからか、キャストは役所広司に小栗旬、杏に滝沢カレンと、実に気合いが入っている。

上映が始まって、まず7歳の大野りりあな演じるトットちゃんの演技に感嘆した。子どもらしい独特の声質が、好奇心旺盛なトットちゃんのキャラクターと見事にマッチしていた。トットちゃんという実在の人物(すなわち黒柳徹子)を違和感なく演じる才能と技術を、これから多くのアニメで見られることを切望する。

作中では、戦前から戦中にかけて、主人公・トットちゃんが風変わりな小学校・トモエ学園で過ごした日々が描かれる。

注目すべきは、戦前の東京に住む上流階級を描いたリアリティである。トモエ学園は下町でも田舎でもなく、当時の郊外である自由が丘に位置する。まずその点で、他の戦争を扱った劇場アニメとは差異化されているのだが、さらに重要なのは、トットちゃんの家庭が明らかに上流階級として描かれていることだ。洋風の家庭に住まい、父親は今のN響でヴァイオリンを奏でる。戦前の日本に存在した、そんな上流階級のありさまを、ここまで生き生きと表現したアニメーションが他にあるだろうか。

自叙伝の原作であり、エンタメに特化した作品ではないものの、構成上の盛り上がりはしっかりと確保されていた。最終シーンは劇場アニメならではの演出で素晴らしかった。ベストセラーの名に恥じぬ良いアニメ化である。(涼)

◆映画情報
監督 八鍬新之介
公開 2023年12月8日
上映時間 114分

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