失われたしっぽへの憧れを文化に しっぽのひみつ展に迫る
2023.12.16
展示はことわざと妖怪の2つのテーマに分かれている。前者では、しっぽに関することわざに対応する標本を展示し、しっぽ学の視点から新釈をつける。例えば、「トカゲのしっぽ切り」ということわざの意味は「不祥事の責任を、上の者が下位の者にかぶせて逃れること」というネガティブな意味だが、生物学上「しっぽ切り」は捕食者の目を逸らすための立派な生存戦略である。
しっぽを切る生き物といえばトカゲを思いつくが、実はリスも「しっぽ切り」をする。リスのしっぽは木の上でバランスをとるのが主要な役割だ。ところであのふかふかしている毛並みは、掴まえられるとスルリと抜け、抜けた後には細い糸のような骨と筋肉しか残らない。痛々しく、アンバランスな見た目になってしまい実に残念だ。
もう一方では、複数のしっぽを持つ妖怪・九尾の狐に焦点が当たった。現実世界にも、複数のしっぽを持っているかのように見える生き物が存在する。トカゲは、しっぽが切れずに傷ついただけの場合でも、傷口から新たにしっぽが生え、しっぽが途中で分岐しているかのように見える。しかし、定義上しっぽは硬い骨が通っているものでなければならない。再生したトカゲのしっぽには軟骨しか通っていないので、厳密には複数のしっぽを持つとは言えない。一方、この定義をすべて満たす生き物もいる。夏祭りの風物詩・金魚だ。意外なことに、金魚の中には、脊椎が尾部で割れ、硬い骨の通った2本のしっぽを持つものがいる。それも決して珍しくはなく、東島特定助教は金魚すくいで見つけることができたという。妖怪の世界と現実の世界、全く別物のようだがどこか通じているところがあるのかもしれない。
本展は、12月10日に既に終了したが、常設展でもしっぽの魅力に触れられる展示がある。1階の霊長類学エリアでは、類人猿の一種であるナチョラピテクスの化石(複製)が眠っており、人類の進化の過程でのしっぽの消失について重要な示唆を与えてくれる。また、脊椎動物の骨格展示で、しっぽを比べてみるのもよいだろう。(唐)