文化

猫が立ち回る世界 慈愛に満ちたまなざし 『もしも猫展』

2023.11.01

京都文化博物館(中京区三条高倉)で『もしも猫展』が開催されている。本展は擬人化作品、特に、無類の猫好きだったと言われる江戸時代後期の浮世絵師・歌川国芳による、猫の擬人化作品を数多く展示し、江戸時代の擬人化表現の面白さに迫る。(梨)

第2章「擬人化の効能」では、人ならぬもの「異類」を主役とする作例「異類物」や、昔ばなし、風刺画などの擬人化作品が展示され、その効能を紹介する。江戸時代、大衆に親しまれた絵画『大津絵 猫と鼠の酒盛』は、猫と、猫に勧められ盃をあおる鼠をラフな筆致で描く。少ない線で描かれた姿はマスコットキャラクターのようでもあり、どこか親しみを覚える。和やかに見えるが、猫が鼠の天敵であることを忘れてはいけない。鼠はうっかり酔いつぶれたら猫に食べられてしまうだろう。慢心は命取りであるという教訓をコミカルさを交えて伝える。

本展では擬人化作品だけでなく、人が猫になった姿も登場する。『猫の百面相 忠臣蔵』では、猫の顔がそれぞれ歌舞伎役者の似顔絵となっている。にらみつけるような目つきや大きくつり上がった眉は、確かに歌舞伎役者のそれであるが、たぷっとした顎元や、わずかに口角が上がっているように見える口元は、猫の愛嬌を隠しきれていない。歌舞伎役者の豊かな表情を再現しながら、同時に猫の特徴を鋭く突いた描き方で、微笑ましい表情が生まれ、絶妙なユーモアが醸し出されている。また、当時は役者ごとに似顔絵の型が決まっており、どんな目鼻立ちの絵が誰を描いたものであるかという共通認識があった。そのような背景もあり、人々は猫の顔立ちや衣服をヒントに、どの猫がどの役者か、さらにはどの演目の登場人物を描いたものであるかまで当てて興じていたという。

第5章「国芳のまなざし」では、国芳の描いた猫の擬人化作品が一挙に並べられ、彼の湧き出るような豊富な着想を目にすることができる。歌舞伎の一場面を戯画化した作品『流行猫の戯 道行 猫柳婬月影』には、猫の要素が絵の至る所にちりばめられており、国芳のユーモラスな発想が際立つ。まず猫の着物の模様に注目してみる。鈴や首紐の柄があしらわれているだけでなく、蝶のように見える模様が、「猫に小判」のことわざからも連想される「小判」を組み合わせて表現されている。しかし国芳の徹底ぶりはここからである。野辺に咲くのは一見忠実に描かれた菜の花に見えるが、目を凝らして見てみると、花は貝、葉はアジの開きでできていることに気づく。こんなところまで、と思わず口元が緩んでしまう。次から次へと生み出された作品の数々からは、尽きることのない猫への愛情が垣間見える。

本展では他にも、猫のおこまの小説の挿絵や、子供向けの浮世絵版画「おもちゃ絵」も展示され、絵に添えられた猫らしいセリフも合わせて楽しめる。擬人化作品に見られるユーモアは、見覚えのある表現も多い。何より、国芳を筆頭とした人々が猫を愛でる姿は現代と変わりなく、絵の向こうにいる当時の人々の存在を身近に感じられるだろう。開催期間は11月12日まで。入場料は一般1600円、大高生1000円、中小生500円。

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