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理学研 「走って逃げる」カタツムリ発見 北海道の高校生と共同で

2023.12.01

理学研 「走って逃げる」カタツムリ発見 北海道の高校生と共同で

実験で用いたエゾマイマイ(プレスリリースより)

梅雨の生き物の代表例、カタツムリ。外敵に襲われた際には殻の中に閉じこもって身を守ることが一般的だが、殻を大きく振り回して天敵を撃退する種がいる。北海道に生息するカタツムリ・エゾマイマイだ。

理学研究科・森井悠太特定助教、北海道札幌啓成高等学校の植木玲一教諭(当時)と同校科学部の総勢6名の生徒らは11月21日、エゾマイマイが昼夜を問わず活動し、捕食者に襲われた際に「走って逃げる」と発表した。昼夜問わず常に活動するカタツムリは世界的にも珍しいほか、外敵に襲われたときにこのような反応を示すカタツムリは初めての報告だという。

動物には大胆さや活発性、社会性などの個性が存在する。動物の個性の傾向が複数の行動にまたがって現れる現象は「行動シンドローム」と呼ばれ、近年大きな注目を集めている。例えば、同種内の競争に強い攻撃的な個体は、捕食者のいるリスクの高い環境でも大胆な行動を取りやすく捕食されやすい、といったもの。しかし、同種内ではなく近縁種間で個性と行動の相関を比較した研究例は少なかった。

研究ではエゾマイマイと、近縁なカタツムリ・ヒメマイマイの2種を対象に行動シンドロームを観察した。エゾマイマイは外敵に対し攻撃的な一方、ヒメマイマイは外敵に遭遇すると殻に閉じこもる行動を取ることから、外敵に対し内気な個性を持つと考えられている。

グループは、アクリルを組み合わせて作成した独自の装置を用いて、エゾマイマイとヒメマイマイの移動速度を計測した。結果、エゾマイマイはヒメマイマイに比べ通常時の移動速度が早いことに加え、エゾマイマイは外部刺激を加えると移動速度が1・2~1・3倍上昇することが判明した。

次に、ボビンから出たミシン糸の端をカタツムリの殻に貼り付け、6時間ごとに糸の長さを測ることで、両種の活動を観察した。結果、▼エゾマイマイはどの時間帯でも、ヒメマイマイより長距離移動し多く活動すること▼ヒメマイマイは典型的な夜行性の種であるのに対し、エゾマイマイは昼夜問わず同程度の移動性と活動性を示す「周日行性」の種であること、が判明した。カタツムリは夜行性の種が多く、明確な活動時間を示さない種は世界初の発見となった。

捕食者に直面した際、走って逃げる行動は、動物の個性に照らすと「大胆」であり、今回の結果は、エゾマイマイが「より大胆な個体がより高い探索性と活動性を示す」という典型的な行動シンドロームを示したことになる。今回の研究は、近親種の間にも行動シンドロームが存在することを示唆しており、動物の個性と種分化との関係を解明する糸口となることが期待される。森井特定助教は、「いずれの実験も、子供の夏休みの自由研究でもできるようなアナログなものですが、予想以上に面白い結果を得ることができたと思います」と研究を振り返った。

研究成果は10月31日、オランダの国際学術誌「Behaviour」にオンライン掲載された。

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