文化

ウイスキーをめぐるヒューマンドラマ 『駒田蒸留所へようこそ』

2023.12.01

ウイスキーをめぐるヒューマンドラマ 『駒田蒸留所へようこそ』

©2023 KOMA復活を願う会/DMM.com

P・A・WORKSと言えば、丁寧な物作りで知られるアニメ制作スタジオだ。本作はPAが手がけてきた「お仕事シリーズ」の系譜に位置している。女子高生が温泉旅館で働くことになる『花咲くいろは』や、アニメ制作の現場をコミカルに描いた『SHIROBAKO』など、PAの代表作が属するシリーズである。

その分、ウイスキー蒸留所を舞台にした「お仕事もの」との触れ込みの『駒田蒸留所へようこそ』に対する期待は高くなる。劇場公開前から全国の蒸留所とのコラボを実施していたこともあり、販促の面でも目を引いていた。

本作には2人の主人公が存在する。1人は実家である駒田蒸留所を継いだ若き社長・駒田琉生。もう1人は、上司からウイスキーの連載企画を丸投げされた新人ウェブライターの高橋光太郎である。災害の影響で製造できなくなったウイスキー「KOMA」の復活を目指す駒田のストーリーと、ライターとして成長していく高橋のストーリーとが絡み合って物語は進行していく。

綿密な取材に基づいているだろう蒸留所の描写にはリアルな質感がある。ウイスキーにまつわる専門知識も提示されるが、押しつけがましいものではなく、スムーズに理解することができた。

「KOMA」の復活をめぐるストーリーが、駒田ら家族の関係修復のストーリーと結びついているのもうまかった。家族経営の蒸留所という設定が適切な形で活かされている。プルーストのマドレーヌの例を引くまでもなく、匂いや味には人の記憶を呼び起こす効果がある。それがウイスキーであればなおさら芳醇な蘇りがあるだろう。

だが、映画全体を見終えたときのカタルシスは薄い。「KOMA」復活という大テーマはわかりやすいが、そこに至るまでの過程で起伏が少ないように感じた。ドキュメンタリー的なリアリズムの視点はきちんと作用している。しかし、その分、エンタメ作品としての外連味が足りていないのではないか。「リアル」に描こうとした結果か、それぞれのキャラクターも影が薄く残念だった。

とはいえ評価は高いようである。MOVIEWALKERPRESSでの評価は4・1を記録している(11月27日時点)。

知られざる業界の事情をフィクションで表現することには社会的な意義もある。取材した事実を偏重しエンタメとしての面白さが損なわれないかはやや懸念されるが、今後の「お仕事シリーズ」にも期待したい。(涼)

◆映画情報
監督 吉原正行
公開 2023年11月10日
上映時間 91分

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