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ハリガネムシ 遺伝子取り込み利用か 寄生したカマキリ操る謎 解明へ

2023.11.01

ハリガネムシは自らの交接・産卵のために、寄生相手の生物である宿主のカマキリを操り川や池に飛び込ませる性質がある。佐藤拓哉・京大生態学研究センター准教授、三品達平・理化学研究所現客員研究員等の研究グループは、ハリガネムシによる遺伝子の取り込みがこの操作に関与している可能性を示す研究成果を発表した。今回の研究成果は、寄生生物が、遺伝的に大きく異なる宿主の行動を操るしくみを解明する鍵となることが期待される。

ある細胞や組織で発現する全ての遺伝子の転写産物を解析する方法をトランスクリプトーム解析という。グループは、この手法を用いて、ハリガネムシがカマキリを操作する前後の両者の遺伝子発現を調べた。

その結果、ハリガネムシにのみ操作の前後で遺伝子の発現に変化が見られた。そして、ハリガネムシの遺伝子の配列を調べたところ、系統的に大きく異なるカマキリと高い類似性を持つ遺伝子が多数見られたという。これらの遺伝子は操作の間に大きく発現したため、ハリガネムシは行動への介入に直接関わる遺伝子をカマキリから取り込んでいるとグループは推察した。

さらに、これらの遺伝子の中には、生物が水面からの光に反応してその方向へ向かう「正の走光性」や生物の体内時計である「概日リズム」の機能を持つ遺伝子が含まれることが分かった。このことは、カマキリが死の危険があるにもかかわらず、自ら川や池に飛び込む原因となっている可能性があるという。

こうした遺伝子の取り込みは、細菌など単細胞生物の間ではよく見られるが、多細胞生物の間ではまれな現象であり、今回の発見は「非常に驚くべきもの」だという。今後、寄生生物が宿主を操る間に遺伝子が転移しあう仕組みやその進化の軌跡が明らかになることが期待される。佐藤准教授は、「ハリガネムシはなぜこのようなSFさながらの宿主操作ができるようになったのか。その謎解きの入口にたった気持ちだ」とコメントした。今回の研究は、科学雑誌『CurrentBiology』オンライン版(10月19日付)に掲載された。

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