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体内時計の保持に下垂体が関与 時差ボケ治療薬の開発へ応用

2023.11.01

関西大学化学生命工学部の山口賀章准教授、京大医学研究科の岡村均研究員ら研究グループは、下垂体から視床下部にある体内時計の中枢へ伝達されるシグナルを調整することで時差ボケ状態を軽減できることを明らかにした。分子神経機構の面から時差ボケを調査したのは、本研究が初めてだという。今後は時差ボケが発生する機構を分子レベルで完全に解明し、生体リズムを調整する薬の開発を目指す。

生物には、約24時間の周期で体内環境を変化させる体内時計が備わっている。時差ボケが起こるのは、移動した後も体内時計が元いた場所での時間を刻み続けるからである。これまでの研究では、体内時計の中枢ではたらくバソプレシンに対応する受容体V1a、V1bが体内時計の維持に関与する分子であることが分かっていたが、作用する部位や方法は明らかになっていなかった。

研究グループは、体内の一部の組織や器官で特定の遺伝子を欠損させる技術を用い、様々な部位のバソプレシンと受容体V1a、V1bの遺伝子を欠損させたマウスを作製し、生体リズムの保持に関与する部位を調査した。マウスが飼育されている明暗環境を急に8時間前進させて、マウスに時差ボケを起こし、体内時計を新しい時刻に同調するまでにかかる期間を測定。その結果、▼バソプレシンとV1aは、全身の細胞にある体内時計を指揮する視交叉上核で生体リズムの維持に関与していること▼従来生体リズムの維持との関係が想定されていなかった下垂体のV1bが、時刻維持に関与していることが明らかになった。遺伝子発現の解析の結果から、下垂体V1bのシグナルは視交叉上核の細胞に作用することで時差ボケを調整すると考えられるという。

現在、交代勤務など、生体リズムと合致しない時間に勤務する職業に従事する人は少なくない。体内時計と環境時間の不一致は、うつ病や生活習慣病を引き起こす一つの要因である。この研究成果は、10月16日に米国の国際学術誌「PNAS (米国科学アカデミー紀要)」にオンライン掲載された。時差ボケの解消だけではなく、不規則な時間の勤務に関連する病態の是正に役立つ薬の開発に繋がることが期待されている。

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