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干ばつ初期の植物反応発見 量的検知で不作防止へ

2023.10.16

安井康夫京大農学研究科助教、水野信之同特定研究員(現:農研機構主任研究員)および国際農研、名古屋大学、理化学研究所、東京大学、農研機構の研究グループは10月3日、初期の干ばつにおいて、植物体内のリン酸量が低下し、リン酸欠乏応答が起こることを発見したと発表した。この応答を指標として干ばつの進行度合いを可視化することにより、強靭な作物生産体制を築くことが期待される。

枯れるに至らない程度の初期の干ばつでも、収量半減などの被害をもたらすことがある。干ばつ初期に植物体内で起こる反応を調べるため、畑での実地試験が模索されてきたが、環境が複雑に変化する畑で干ばつを再現するのが難しいことや、十分な雨が降ると干ばつ試験が行えないことが障壁となって、これまで実現していなかった。

研究グループは、初期の干ばつを人為的に安定して引き起こすため、水はけを良くすることを目的として畑の土を盛り上げる「畝」を利用した実験手法を開発した。6年間にわたるダイズ畑での実地試験の結果、高さ30㌢の畝を利用することで収量がおよそ半減する軽度の干ばつを再現することに成功した。さらに、軽度の干ばつ条件下で栽培したダイズの葉における遺伝子発現を網羅的に解析したところ、葉のリン酸含量が低下し、リン酸欠乏応答が起こることが判明した。実験植物であるシロイヌナズナにおいてもダイズと同様の結果が得られたことから、この応答のしくみが植物全体に普遍的に存在していることが示唆された。また、リン酸欠乏応答を誘導できないシロイヌナズナ変異体では、野生型とくらべて干ばつ時の生育が著しく抑制されたことから、干ばつ初期においてリン酸欠乏応答は生育を維持するために重要な役割を果たしていることが明らかになった。

本研究の成果により、これまで検知することの難しかった初期の干ばつに対する植物の応答レベルを、リン酸欠乏応答を指標として定量的に測定することが可能になった。この技術を応用して、干ばつによる作物収量の減少を未然に防ぐ水分供給システムを構築することにより、作物生産の安定性を向上させ、将来の食料安全保障の強化に寄与することが期待される。

この研究成果は、2023年8月19日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。

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