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吉田寮訴訟 「判決前に取り下げを」 教員40名 総長へ要請書

2023.08.01

吉田寮訴訟 「判決前に取り下げを」 教員40名 総長へ要請書

記者の質問に答える教員有志=時計台記者室

京大当局が吉田寮現棟・食堂の明け渡しを求めて寮生を提訴した裁判で、延期されていた最終口頭弁論が10月5日に行われることが決まった。結審を前に、教員有志が7月20日、訴訟の取り下げと対話による解決を求めて総長と学生担当理事宛てに要請書を提出した。呼びかけ人には28名の教員と12名の元教員が名を連ねる。今後、教員に限らず賛同者を募り、9月初旬に名簿を提出して有志との懇談を総長らに要求するという。

教員有志は19年7月の初回口頭弁論の前にも同様の要請書を提出した。その後、直接の返答はなかったという。最終弁論が行われる予定だったこの日、改めてまとめた要請書を寮務担当の厚生課職員に手渡した。呼びかけ人の駒込武・教育学研究科教授ら3名が提出直後に記者会見を開き、「判決が下ったら戻れない。それまでに訴訟を取り下げて対話を再開すべき」と訴えた。

要請書を総長らに取り次いだか本紙が京大に質問したところ、「当事者からの質問ではないため回答を差し控える」との返答を得た。懇談に応じる見込みを尋ねると「(懇談要求を)把握していない」と答え、訴訟取り下げの可能性については「係争中の事案に関するため回答を控える」と述べた。

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▼駒込武 教育学研究科教授 わがままな寮生が退去を拒んでいると思われがちだが、寮生側は新棟へ移る方針を示したにもかかわらず、大学が寮自治会による運営を問題視して提訴した。大学が本当に寮生の安全を確保したいならこの対応にはならないはずだ。寮生の新棟移転と食堂棟の利用を認めてから話し合うべき。学生にとって裁判継続の負担は大きい。

▼佐藤公美 人間・環境学研究科教授 学問は対話の上に未来の構築を目指すもので、大学は対話を守る最後の砦。その原則を寮生が実践するなかで大学が対話を打ち切った事実は、大学が自らの存立根拠を否定することにほかならない。福利厚生施設は学ぶ権利を守るためにある。大学の使命はそれを享受する者を一方的に選ぶことはではない。寮を誰よりも理解する寮生たちと対話する以外にない。訴訟を取り下げることで名誉を回復する機会がまだ残されている。勇気ある決断をしてほしい。

▼細見和之 同教授 食堂も地域に開かれた表現の場として重要だ。私は食堂でのライブに出たことがあり、いろいろな出会いがあった。京大が自ら掲げる「自由の学風」の構成要素として、吉田寮が存在してきた。自治寮であることが大事。京大は寮生と話し合いながら維持してきたこれまでのあり方を否定している。尽力してきた歴代の副学長ら関係者に失礼で、歴史に対する冒涜に等しい。私が指導している院生に吉田寮生がいる。裁判に対応しながら論文を執筆するのはプレッシャーだ。大学が裁判をやめれば解決する。

大学設置基準改正に苦言

この日の会見で駒込氏は、吉田寮や京大に限らず、全国の大学の運営に政府が「圧力」をかけていると指摘した。例として昨年9月の大学設置基準の改正に言及し、運動場や寄宿舎について「原則として設ける」から「必要に応じて設ける」に変更されたこと、図書館に閲覧室を備えるよう定める規定が削除されたことを挙げた。駒込氏は、「これらの設備はなくてもよいと言っているようなもの。全体として、土地などを有効活用して大学自らお金を稼げという圧力がかかっている」と危惧した。文部科学省は規程変更により教育水準が低下しうるとの懸念に対し、公式サイト上で「学生に著しい不利益を生じさせてはならないことは、今回の改正後も変わらない」と説明している(=表)。

大学設置基準は学校教育法にもとづき定められた省令で、組織や設備、教育課程、教員の資格などの「必要な最低の基準」を定める。これを下回らないよう「不断の見直し」を各大学に求めている。

【表】22年9月の大学設置基準の変更(文科省ホームページのQ&Aなどをもとに作成)


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