文化

京大近所探訪VOL.18 大文字山の滝

2023.07.16

京都の夏は暑い。盆地特有のうだるような暑さを和らげようにも、冷房の電気代は馬鹿にならないし、風鈴をつるす類の風流は敷居が高いわりに実効性が低い。学期末のこの時期、自習のため図書館に籠るのにも飽きてきて、どこか涼しいところはないかとグーグルマップをいじっていると、大文字山に滝があるのを見つけた。風が木々をさわさわ揺らす音が響く中、冷たい瀑布のしぶきを浴びればさぞ涼しからん。ついでに「滝行」でもして心頭滅却すれば火もまた涼し、とはならないまでも、近所にあるのに見に行かない手はないということで、銀閣寺近くの登山口に向かった。

目次

中尾の滝
二段の滝
楼門の滝


中尾の滝


小さい流れが勢いよく段差を落ちてゆく



銀閣寺の境内わきから山に分け入り、火床へ向かう道と別れて川沿いを進む。砂防ダムの横を抜けほそい山道を登っていくと、登山口から30分くらいのところで、谷から高い水音が聞こえてくる。勾配のゆるいところに谷への道ができており、水音に向かって降りていくと小さな滝が現れた。半割の竹に油性ペンで「中尾の滝」と書いた看板が近くの木に括りつけられている。筆者と同じく涼を求めたのだろうか、平日の昼間にもかかわらず先客の姿があった。

国土地理院は「流水が急激に落下する場所」のうち、落差(滝の前後の高低差)5㍍以上のものを「滝」として地図に表記しているが、それより小さい落差3㍍くらいの規模に見える。地図的には「滝」ではないのかもしれないが、細くわかれた水が音高く岩を打つ風情はまさに滝のそれだった。滝つぼでコポコポと渦巻く水に手を浸すとひんやり気持ちよく、山登りの身体の火照りもひいていった。

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二段の滝


奥の細い流れが上段で、手前の下段との間に滝つぼがある



元の登山道に戻って東に進み、大文字の支峰「子鹿山」から北に進路をとる。通る人が少ないのか、路盤の弱い急な下り坂を降りていくと深い谷に出る。滝の音を頼りに谷を流れる白川の支流を遡ると、すぐ二段の滝が見えてくる。

「二段」の名前が示す通り、この滝は二層の階層構造を持っている。このように階層構造を持つ滝は、「段瀑」と分類される。上段は少し立派な日本庭園にもありそうな大きさで、細い流れがせかせかと奔っている。上段と下段をつなぐ滝つぼは綺麗な円形をしている。下段の方が落差が大きく水が流れる幅も広いため、上段に対して鷹揚な印象を受ける。全体の落差は5㍍強と規模はやはり小さめだが、激しい渓流の中にあってひときわ高い音を響かせている。深い谷中で陽射しはほとんどあたらず、岩に当たってはじけた飛沫が周囲を一層涼しくしていた。

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楼門の滝


急峻な地形の中にあって周囲は足場が悪い



二段の滝からしばらく沢を登り、分岐から尾根筋の道に入り南下する。尾根伝いに45分ほど進むと、標高465㍍の大文字山の山頂に出た。三角点の近くは木々がなく、京都の市街地を一望することができる。ここから京都市内へは複数のルートで下山できるが、道沿いに瀑布がある鹿ケ谷への道を選ぶ。30分ほど山道を下り、目指す楼門の滝に到着した。

落差は約10㍍で、大文字山では一番大きい。滝の脇の登山道がつづら折れになるほど急峻な地形の中を、激しい水音をたてて水が落ちていく。この滝は途中で岩に当たって流れが分かれる「分岐瀑」に分類される。

一帯には応仁の乱以前に如意寺という山岳寺院があった。三井寺(大津市)の別院で、この山中に東西3㌔に及ぶ広い寺域を持っていたという。鬱蒼とした辺りの様子からは想像もつかないが、如意寺の楼門がこの近くにあったことが滝の名の由来らしい。

滝は「如意が滝」とも呼ばれ、17世紀の屏風絵「洛外図」に描かれている。山肌の間から覗く描写から、当時は滝の周囲に植生が少なく、水量の多い日には東麓から見えたのではないかと考えられている。訪問した日の水量はそこまで多くなかったが、迫力ある切り立った地形を幾筋もの水が落ちていく様は圧巻だ。

今回は大文字山にある3つの滝を紹介した。火床や山頂と比べてマイナーな場所を回ったためか、他の登山者にほとんど出会わないだけでなく、コース全体を通して案内が少なく迷いやすい。急斜面や倒木など危険な道が多く、迂回が必要な箇所もあった。入山の際は単独行動を避け、登山計画の作成や十分な装備など、危険に備えた行動をされたい。

そもそも滝に涼みに行くという趣旨だったが、賢明な読者ならはじめからお察しの通り、真夏に山登りをして暑くないわけがない。汗を拭いつつ帰った下宿で、図書館での自習に「飽きた」などと戯れ言をしたためていたら、前期の成績表に寒い思いをする未来が脳裏をよぎって冷や汗をかいた。これで十分涼はとれたので、明日から素直に図書館に通うとしよう。(汐)

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