文化

現代に伝える愛の表象 『ルーヴル美術館展 愛を描く』

2023.07.16

左京区岡崎にある京都市京セラ美術館で、『ルーヴル美術館展 愛を描く』が開催されている。ルーヴル美術館の膨大なコレクションから精選された、ヴァトー、ブーシェ、フラゴナール、ジェラール、シェフェールなど73点の絵画を通して、西洋社会における愛の概念がどう表現されてきたのかをひもとく。16世紀から19世紀半ばまで、西洋各国の主要画家の名画によって「愛」の表現をたどる、「これまでにない趣向の」展覧会となっている。

本展では、ギリシア・ローマ神話から題材を取った神話画から、聖書の場面などを切り取った宗教画、人々の日常を描いた風俗画まで、様々なジャンルの絵画を4章構成で展示する。展示室に入って最初に目に入ってくるのは、『アモルの標的』(1758)だ。キューピッドとも呼ばれるアモルたちが弓矢の刺さった的を掲げ、愛が生まれたことを称えている。アモルの愛らしい表情や、的の周りに咲きこぼれる色とりどりの花は、ロココ様式に特徴的な繊細で優しい色遣いで描かれており、祝福ムードに満ちている。宙を飛び回るアモルが取り囲む的には、中心から外れたところに弓矢の刺さった跡が残されており、愛が成就するまでがいかに厳しい道のりであるのか、暗に示しているように思われる。絵画の下の方へ目を落とすと、アモルが弓矢を燃やしている。真実の愛は一度のみ与えられることを表しているのだろうか。「愛」について様々に思いを致すことができ、本展の始まりにぴったりの作品である。

第2章「キリスト教の神のもとに」では、キリスト教を主題に扱った宗教画が展示される。その中の1つ『十字架降下』(1651頃)は、磔刑に処されたイエスが十字架から降ろされる場面である。人間の原罪を背負ったイエスの、犠牲に至る愛が描かれる。晴れているはずの空も光の当たる地面も、暗めの落ち着いた色調で、人物の表情や動きも抑制して描かれているのが、かえってもの悲しさを誘う。

そして第3章「人間のもとに―誘惑の時代」では一転して、市民生活の中の滑稽にも思えるような場面や、上流階級の優雅な恋愛模様を描いた風俗画が並ぶ。ひと際目を引くのが『部屋履き』(1655―1662頃)だ。この作品で異質なのは、人物が1人も描かれていないことである。見えるのは、開け放たれたドアと、そこから続く部屋の入口部分のみ。ドアには鍵がささったままで、部屋履きは乱雑に脱ぎ捨てられ、棚には読みかけの本が無造作に置かれている。住人は慌ただしく部屋を出て行ったようで、後には少し怪しげな静けさが残る。いったい何があったのだろうか。それを考えるときに重大なヒントを与えてくれるのが、室内にかかっている『雅な会話』という絵である。この、金銭の絡んだ愛を主題とした絵1枚をもとに、ここから先をどう読み解くのかは、鑑賞者それぞれの想像力に任されている。

本展では他にも、ギリシア・ローマ神話の神の暴力的なまでの愛や、現代から見れば驚きを覚えるような親子愛が描かれる。様々な絵画との出会いを通して、「愛」という人の根源的な感情に思いを巡らせてみても良いかもしれない。9月24日までの開催。開館時間は10時から18時(入場は17時まで)の間で、料金は一般2100円、大高生1500円、小中生1000円。(梨)

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