インタビュー

〈京大知伝〉伝統をつないで 教育学部3年 田中里奈さん

2023.07.01

〈京大知伝〉伝統をつないで 教育学部3年 田中里奈さん

アイリッシュの「Bonfire Dance」を踊る田中さん(写真中央)

京都大学民族舞踊研究会には「コール」という伝統的な練習がある。部員は曲を割り当てられ、「コーラ―」となり、指導者から踊りを習う。そして指導者から指導許可を得ると、例会で他の部員に伝授する。こうして、2年間で約200曲分の舞踊を引き継いでいく。

コールでは、全員で1つの円になってコーラーを取り囲んで練習する。陽気な掛け声と軽快な音楽とは裏腹にステップは複雑で、一苦労している人もいれば軽やかにこなす人までさまざまだ。和気あいあいとした雰囲気の傍ら、パソコンの前に座り、様子を見守る女性がいた。田中里奈さんである。

田中さんは昨年11月から「指導責」に就き、指導者やコーラーを探したり、練習内容を調整したりして、コールの歴史を支えている。また、練習中はパソコンやミキサーで音量や曲の速度を調整することもあれば、自分が自らコーラーを務めることもある。

民族舞踊と最初に接点を持ったのは大学入学直後。今の同期と例会の見学に行ったときだった。それまで民族舞踊を見たことさえなかった。ダンス経験はあったが、中学時代は卓球部に所属し、高校は女子バスケットボール部のマネージャーを務めていた。また、勉学に勤しむ中で、踊りから遠ざかっていた。

踊りの世界へ引き戻したのは、見学で目にしたルーマニアの舞踊「Balta de la Beiu」だった。先輩の踊りに魅了され、次の見学日でもう入会していた。しばらくは、周囲の意欲の高さや覚えることの多さに圧倒されたが、中高で関わっていた「競技」とは異なり、人と競い合わない民族舞踊に魅力を感じた。

しかし、間もなく新型コロナウイルスの感染拡大により、披露の場や例会がなくなる。練習場は閉鎖され、屋外で練習することもあった。民族舞踊では定番である、手をつなぐ踊りもできなくなった。そして、新型コロナの影響は「コール」文化にまで襲いかかる。例会が行えない日々が続き、踊りのいくつかが継承できなくなった。厳しい状況で伝統のために奮闘する先輩の姿を見てきた田中さん。彼女の声には悔しさがにじむ。現在は、他大学の民族舞踊研究会と交流を行うなど、コロナ以前の活動も復活している。「知らない人同士でも、知っている曲でつながりを感じられる」

例会を取材した際は、卒業した先輩とのパーティーを目前に控えていた。経験者の前で踊るこのイベントが最も緊張が高まる。スケジュール表は予定であふれ、休日は朝から晩まで自主練習が入る。加えて、例会で練習する曲を決める指導責としての仕事もこなしていた。尊敬する先輩の背中を追って指導責に就任したが、難しさもある。指導者が社会人であることも少なくないため、探すのに苦労する上、どうしても引き継げなくなった曲をコールから外す苦渋の決断を下すこともある。指導責について田中さんは笑顔でこう語る。「一つ一つの曲に、コーラーがいて、努力を重ねて、指導するというストーリーがある。それをつないでいきたい」 そう意気込む彼女にどこか力強さを感じた。膳所高校出身。(輝)

衣装に身を包む田中さん(写真右)。衣装は夜鍋して作ることもある(本人提供)

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