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医学研 「勤続は必ずしも健康に良くない」 引退者の心疾患リスクを調査

2023.07.01

京都大学大学院医学研究科の佐藤豪竜助教らの研究グループは、仕事を長く続けることが必ずしも健康に良くないことを示唆する研究成果を発表した。引退した人は、働き続けている人よりも心疾患のリスクが2.2%低いこと、運動不足のリスクが3.0%低いことなどが明らかになった。高齢者の勤労継続が体に良いことを示唆する既存の研究と相反するかたちとなる。

グループは、既存の研究が、健康な人ほど勤労を継続しやすいというバイアスを十分に考慮していない可能性があると指摘した。引退とは強く関係するが、心血管リスクと直接に関係のない要素を考慮するため、操作変数法と呼ばれる因果推論の方法を用いた。本調査では各国の年金支給開始年を操作変数とした。また、個人や国の属性に着目し、個人の性別や遺伝子、各国の医療制度や労働市場の違い、社会・経済状況の時系列トレンドなど、観察できない様々な要因の影響も考慮した。35か国約10万人に対する本調査と、アメリカをはじめとする諸外国の高齢者に対する研究データを分析した結果、引退した人について、心疾患リスクの低さに加え、教育年数の長い人は肥満や運動不足のリスクが低いこと、女性では喫煙率が低い傾向にあることなどが明らかになった。

現在、各国で年金の支給開始年齢の引上げや高齢者の就労継続支援が行われている。研究者は、意欲ある高齢者が働き続けることを「否定するつもりはない」としつつも、高齢化社会における運動などの健康づくりの重要性を強調した。本研究成果は2023年5月8日、国際学術誌「International Journal of Epidemiology」にオンライン掲載された。

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