文化

絵が詠い、語る。人間味あふれる平安の人々 泉屋博古館『歌と物語の絵―雅やかなやまと絵の世界』

2023.07.01

絵が詠い、語る。人間味あふれる平安の人々 泉屋博古館『歌と物語の絵―雅やかなやまと絵の世界』

〈源氏物語図画帖 左隻〉光源氏三十代のエピソードが描かれる

泉屋博古館(左京区)で開かれている企画展『歌と物語の絵―雅やかなやまと絵の世界』は、平安期の和歌や物語を題材にした屏風や掛け軸など、19点を展示している。泉屋博古館は、住友財閥を創始した住友家のコレクションを保存・公開するために1960年に設立された美術館だ。今回の展示品も、全て館蔵の住友コレクションからの出展となる。

展示室に入ってすぐ、屏風絵に用いられた大胆な金地に目を奪われた。屏風の多くが、平安期に成立したやまと絵を踏襲し、江戸時代に製作されたもので、金箔に押された雲の模様が見えるほど綺麗な状態で残っている。

「うたうたう絵」と題された前半部は、和歌にまつわる書画が並ぶ。例えば、『三十六歌仙書画帖』では、藤原公任が選んだ平安中期以前の歌の名人たちが、装束姿で描かれており、横には各々の代表的な歌が添えられている。作者の松花堂昭乗は真言僧であり、「寛永の三筆」にあげられる書の名手だった。人物たちの描き方は少ない線が軽やかで、スター歌人の威厳というより人間らしさが感じられる。机に向かったり扇を手にしたり、ちょうど今和歌を考えているかのような真剣さはかわいらしい。

後半は「ものかたる絵」に焦点を当てる。『楊貴妃・楼閣図』『竹取物語絵巻』『源氏物語図屏風』など、聞き覚えのある題材が並び、中高の古典の授業が懐かしくなるかもしれない。かぐや姫が天に帰っていく竹取物語のラストや、若き光源氏が北山の僧庵でのちに妻となる紫の上を垣間見る場面など、鮮やかな色彩とともに描写されることで、文章で読んでいた以上に生き生きと胸に迫ってくる。特に源氏物語を描いた屏風は、一隻の中に6つの異なる場面が配置され、光源氏や紫の上らの人生の流れも視覚的に実感される作りになっている。作者名は不明で、町方の画家による作品だそう。

本展示では、やまと絵の迫力ある色彩や繊細なタッチを通して、和歌や物語と絵画の深いつながりを知ることができる。作中の場面からインスピレーションを受けて絵画が制作され、反対に絵画の影響を受けて歌が詠まれることもあり、相互に影響を与え合って発展してきたという。ときに争い合いときに恋に溺れ、人間味あふれる作中の人物たちは、絵画となることでますます親しみ深く感じられるだろう。開催期間は7月17日まで。入館料は、一般800円、高大生600円、中高生以下無料。(桃)

関連記事