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ビリルビン 植物中でも発見 光合成効率の維持に寄与か

2023.06.16

動物の血液分解時に産生されるビリルビンは抗酸化物質として人体に有益な一方で、その過剰な蓄積は黄疸の原因として知られる。従来、ビリルビンの産出は動物細胞でのみ発生し、植物では起こらないと考えられてきた。宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センターの児玉豊教授、京大工学研究科の沼田圭司教授らの研究グループは6月8日、ビリルビンが植物中でも作られていることを明らかにした。今後、複数の側面から人間社会への寄与が見込まれる。

ヒトなどの動物は、血液中の「ヘム」と呼ばれる分子を使って酸素を運搬している。古くなった血液を分解する際、このヘムは一度ビリベルジンという物質に変換された後、酵素の働きでビリルビンという色素に代謝される。動物はこのプロセスを経て、毒素の強い「遊離ヘム」の発生を防いでいる。

植物の場合、ビリルビンを産出する酵素の働きが検出されないため、動物と異なり、ビリルビンは代謝されないとされてきた。代わりに、植物特有の経路によってビリベルジンが別の物質として代謝されることが知られていた。しかし、その総量が植物のヘムの総量よりも少ないため、グループは植物中でもビリルビンが産出されていると推測した。

研究グループはまず、3種類の植物に蛍光タンパク質を用いて、植物中にもビリルビンが存在することを確認し、試験管内に葉緑体の環境を作り出すことで、ビリルビン産出の仕組みを探った。すると、光合成の光エネルギーによって産出されるNADPHと呼ばれる分子とビリルビンの「前段階」・ビリベルジンが存在すると、酵素なしでビリルビンが産出されることが判明した。これは、▼細胞中の化学反応の多くは酵素によって触媒される▼動物の場合、ビリルビンは酵素の働きで産出される、という点で「予想外」だったが、以前から植物中でビリルビンの合成酵素が検出されなかった事実などと合致し、グループは「妥当な結果」と位置づけた。

また、強光下で植物中のビリルビン量が一時的に増加することも判明した。強光下では植物中でNADPHが過剰に生産され、体内の酸化還元状態が撹乱される。グループは、抗酸化作用を持つビリルビンを産出することでこれを防ぎ、光合成効率を維持していると予測した。この予測は、葉緑体内のビリルビン濃度を人為的に上昇させると、葉緑体内での酸化が抑制されるかたちでより強められた。

今回の研究成果は、人間の生命活動に重要なビリルビンが動植物共通の物質であることを示している。今後、ビリルビンについて植物科学の側からも解析が進むことで、人間をはじめ動物の医学への寄与が見込まれる。加えて、ビリルビンを用いて、強光下でも効率的に光合成を行う高収量な作物の開発も期待される。

本研究成果は、2023年6月8日、学術誌「Science Advances」に掲載された。

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