文化

多才なイラストレーター 『和田誠展』

2023.06.01

多才なイラストレーター 『和田誠展』

夜空に旅立った小鳥(『週刊文春』雑誌表紙 2017 多摩美術大学アートアーカイヴセンター蔵 ©Wada Makoto)

5月20日から6月18日まで、ジェイアール京都伊勢丹の7階に隣接する美術館「えき」KYOTOで『和田誠展』が開かれている。本展では、和田誠のイラストレーションをはじめとする創作作品を、30のトピックを軸に数多く展示し、多彩な才能を持った彼の全貌に迫る。

和田誠は大阪で生まれた。幼い頃から絵を描くのが好きだったという彼。幼少期の展示作品の中でも、ミッキーマウスとポパイが共演する漫画は特に興味深い。各キャラクターが色鉛筆を用いて生き生きと描写されており、当時わずか9歳だったとは信じ難い程の見事なクオリティだ。本展では大学1年生の時に興和新薬のコンクールに応募し、1等賞を取った蛙のイラストレーションも展示されている。可愛らしいというよりは、ちょっと気だるそうにしていて、絶望とまでは言わないものの、どこか日常に飽きているような蛙で、何か気に食わないことがあったのだろうかと、つい思い巡らす素敵な作品だ。

和田は大学3年生の時、映画「夜のマルグリット」のポスターで、新人デザイナーの登竜門とも言われた日宣美賞を受賞した。大学卒業後には、広告制作の専門会社ライトパブリシティに入社し、ポスターやアニメーション、似顔絵などの様々な仕事を手掛けた。独立後の和田の有名な仕事の1つに『週刊文春』の表紙がある。本展では彼の描いた同雑誌の表紙500点以上を展示するが、特に担当1号目と最後の2000号目の作品に注目したい。どちらも、三日月が照らす夜に手紙をくわえた小鳥を題材としている。だが、最初の絵で止まっていた小鳥は、最後の絵では夜空に飛び立った。長い旅に出た小鳥の表情には、一点の曇りも見られない。『週刊文春』の仕事に区切りをつけた和田自らの決意表明のようにも感じられる。この完成から2年後、和田は天国へと旅立った。

美術の世界のみならず、和田は映画・音楽・文学にも造詣があった。彼の映画エッセイや、自身が作曲にあたった歌集等の様々な展示物がそのことを物語る。展示物の中でも、とりわけパロディ作品からは、和田のユーモアを味わうことができる。そうした作品を「モジリ」程度のものでしかないと本人は語ったそうだが、その腕前は確かだ。『暮しの手帖』ならぬ「殺しの手帖」など、思わずニヤリとしてしまう作品の数々には舌を巻く。

和田誠と言えば、タバコ「ハイライト」のパッケージデザインや、星新一や丸谷才一などの作家の挿絵や装丁を思い出す人は多いだろう。しかし、彼の才能は美術の範疇に留まらない。「知ってるようで知らなかった」がテーマの本展は、会期中無休で、入館料は一般が1000円、高・大学生が800円、小・中学生が600円だ。(郷)

関連記事