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農学研 倒れにくいトウモロコシを選抜  新手法を確立

2023.05.16

Sharma Vikas京都大学大学院農学研究科研究員、友部遼東京工業大学助教、中島大賢北海道大学助教、加藤洋一郎東京大学教授ら研究グループは4月26日、飼料用トウモロコシ茎部の変形しやすさを、弾性波を利用して非破壊的かつ迅速に、高精度で計測する新技術を開発することに成功したと発表した。弾性波は、弾性をもつ物質の内部および表面を伝わる波のこと。今後、台風や豪雨に際しても倒れにくい飼料用トウモロコシ系統を効率的に選抜できると期待される。

新型コロナウイルスのパンデミックやウクライナ侵攻の長期化に伴う国際的な飼料価格の高騰によって、国内でも食料品価格の上昇が社会問題化している。そのため国産飼料用トウモロコシの生産に注目が集まっているが、増産には課題も多い。台風や豪雨により作物が倒れ伏す「倒伏」という現象はその一つで、回避するためには倒れにくいトウモロコシ系統の選抜が重要である。しかし、個体を刈り出し新鮮なうちに折り曲げて強度を調べる従来の破壊的な検査法は、開花期には2〜3mに成長する飼料用トウモロコシに適用することが困難だった。

研究グループはこれまでに、トウモロコシ茎部の立体的な振動パターンを再現するシミュレーション技術を開発していた。今回、弾性波を観測する超小型センサーアレイを新たに開発し、その技術と組み合わせることで、「ヤング率」と呼ばれるトウモロコシ茎部の変形しやすさを、効率的に評価する手法を確立した。この手法のほ場試験として、トウモロコシ地際部を軽く叩き、弾性体の表面を伝搬する横波・表面せん断波を発生させた。その振動データから、試験した6品種のヤング率や茎の密度などを算出した。こうして得られたヤング率の妥当性を検証するため、個体全体の固有振動数を求める振動試験と、ヤング率から固有振動数を予測するシミュレーションを行い、両者を比較した。結果、双方の固有振動数は全ての供試品種でよく一致したという。ほ場試験により得られたヤング率の妥当性が数値シミュレーションにより裏付けられた格好だ。また、シミュレーションから、トウモロコシが風によって振動した際に茎が最も変形する箇所を推定し、試験した6品種は、雄穂基部周辺のみが曲がるものと、茎全体がS字に曲がるものに分けられることも判明した。

本研究はイネやコムギ、ダイズ等にも応用されることが期待される。また、特定の品種について、茎のどの部分を改良すれば倒伏を防止できるかを可視化できた点で、世界のトウモロコシ増産に寄与することが期待される。

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