インタビュー

〈京大知伝〉白黒つける楽しさ 広めたい 医学部4年 乙部正成(おとべ・まさなり)さん

2023.05.16

〈京大知伝〉白黒つける楽しさ 広めたい 医学部4年 乙部正成(おとべ・まさなり)さん

部室で対局に臨む乙部さん。静寂の中、対局時計(写真右端)の秒読みの音だけが響く。

「ゲームの形が多彩で、計算力、盤面の読みなど多くの要素が絡む。どこまでいっても突き詰めるところがないのが魅力」。昨年度、京大囲碁部で部長を務め約40人を率いた。チームは昨年末の第66回全日本大学囲碁選手権に関西代表として出場し、24年ぶりに連覇を達成した。

6歳のころ、欲しかったオセロと間違って、親に囲碁をねだった。不思議がる両親を尻目に、買ってもらった囲碁に興味を持ち始め、漫画を読んでルールを覚えた。高校時代は団体戦で全国優勝。それでも、「大学囲碁は競技人口は少ないが、選手のレベルが高く、最初は通用しなかった。京大囲碁部で鍛えてもらった」と振り返る。

囲碁は、盤面の広さゆえに無数の戦術が存在し、一気に形勢逆転することも珍しくない。「ほかのボードゲームより、人間の独創性が色濃く残る」。格上の選手との対戦、感想戦のほか、時にAIを活用しつつ研究を重ねる。「AIの読みの深さゆえに、その瞬間は最善手だが全体で見たら悪手という場合もある」。自身の経験をもとに、AIの出した「正解」を解釈し戦略のストックを作っていく。

大学選手権では、チームの5人が同時に対局を開始する。21年度は春・秋どちらも、仲間が2勝2敗で対局を終え、自身の勝利でチームの優勝を決めた。自信につながる勝利で喜びも大きかった一方、当時の実力を顧みて「大舞台で実績のない自分の勝利は、意外性を伴う、ドラマチックな展開だった」とも振り返る。

「後輩たちにもこの気持ちを味わってほしい」。継続的に強いチームを築くには、真剣に対局する楽しみや勝つ喜びを多くの部員に味わってもらうのも重要だ。団体戦では相手との対戦成績や相性がカギを握る。「実力者同士は顔見知りで何度も対戦経験がある場合も多い」。だからこそ、大学に入ってから実力をつける部員の存在は、対戦相手にとって脅威になりうる。

近年の囲碁界を見渡し、「大会の減少やタイトル戦の賞金減額など元気がない」と将来を憂う。加えて、囲碁普及への障壁として「大会の敷居の高さ」を挙げる。有段者のみの大会も多く、経験を積めない部員も多い中、部内で積極的に大会を開催し部員同士の交流の場を作ってきた。また、2022年度には総長賞を受賞。「囲碁という競技に注目してもらえるきっかけになるのでは」と期待を寄せる。

22年度はメンバーとして選手権に出場したものの、決定的な場面での出場はなかった。「連覇という結果に、部長としてホッとしたところはある」としつつも、今年度はさらに経験を積み、個人戦でも「重要な場面で信頼される選手」を目指す。

対局は一発勝負。だからこそ「このチームの為に勝ちたいという気持ちが大切」。目に見えない部分も含めて、部長を退いた今もチームを支える。灘高等学校出身。 (爽)

22年度の大学選手権で連覇を達成した囲碁部のメンバー。中央が乙部さん。=日本棋院東京本院(写真は本人提供)

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