インタビュー

〈京大知伝〉「わかりやすい面白さ」届けたい 劇団愉快犯 筒井隼介(つつい・しゅんすけ)さん

2023.04.01

〈京大知伝〉「わかりやすい面白さ」届けたい 劇団愉快犯 筒井隼介(つつい・しゅんすけ)さん

「モノエチュード」について説明する筒井さん。 取材当日は卒業式、巣立ちの晴れ着に身を包んでいた。

「自分の演技がお客さんに伝わっているのがわかる。だから『笑い』が好き」。高校で演劇部に所属、文化祭のクラス劇に力を入れた。森見登美彦に憧れ京大に入学。出会ったのは、オリジナル脚本の喜劇にこだわる「劇団愉快犯」。新歓公演は学生演劇には珍しいミュージカルだった。その挑戦的な姿勢と、独自の笑いを届けようとするコンセプトに魅力を感じた。

振り切った表情と身体の動き、その演技は役者陣のなかでもひときわ目を引く。「何かと頭を使う現代社会だからこそ、深く考えなくても笑える作品にしたい」。そのために、笑いどころをはっきりと伝えることを意識する。その力を培った練習のひとつがエチュード、つまり即興劇だ。目の前の物を、それぞれの演者が違う物に見立てて会話する「モノエチュード」など、その種類は多岐にわたる。最初は他の人に合わせるのが精一杯だったが、自分から仕掛ける楽しさに気づき始めた。「度胸もつくし、攻めた演技もできるようになった」。

先月行った公演『脚本があると思うな!』では総合演出を務めた。役者や音響、照明などさまざまな部署を束ねる演出は、自分の内面に向き合って「やりたいことを言語化」し、コミュニケーションをとることが必要だ。本作は3つの短編で構成され、脚本と演出を全く知らない演者が混ざるなど、アドリブによって展開していく。「どうなるかわからないものを楽しむ」ものを作りたい、その趣旨が伝わるよう宣伝文やビラにも気を配った。

春の実験公演『脚本があると思うな!』座組の皆さん(劇団愉快犯提供)



言語化の重要性に気づいたのは、昨年秋の11月祭で脚本を書いた経験が大きい。森見登美彦の小説に登場する屋外演劇『偏屈王』のパロディを目指したが、初めての脚本執筆で初稿はぼろぼろ。さらに11月祭での規制が強まり、小説のように屋外で突発的に上演する「ゲリラ演劇」も不可能となった。悔しい思いを作品に昇華したい。思いついたのは、大学という場所の意義を問い直すことだった。社会からみた大学は人材を育てる場かもしれない。「でも学生にとっては、自分なりの幸せを見つける場所なはず」。この思いに焦点を当て書き上げた。「憧れていた森見登美彦にプラスして違う面白さを提供できた」と振り返る。

春からは国家公務員の仕事をしながら、社会人劇団に入るつもりだ。「演劇はやめるつもりだった」。しかし、ひとりでは絶対に到達できない面白さをつくることができる、その体験が忘れられないと笑顔を見せた。劇団愉快犯はユーチューブで公演動画を公開している。また、筒井さんが主演を務める映像作品「空想就活劇『スーツ・アクター』」が同じくユーチューブで順次公開中だ。(凡)

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