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アリの階層格差 仕組み解明 栄養獲得の「鍵」 発現に差異

2023.04.01

アリの階層格差 仕組み解明 栄養獲得の「鍵」 発現に差異

尿酸分解酵素が窒素を利用する「鍵」になっている(京大提供)

京大農学研究科の小西堯生博士課程学生らの研究グループは、3月22日、シロアリの社会において王と女王だけが尿酸を分解する酵素を発現し、繁殖に必要な栄養を得ていることを発表した。世界初の発見であり、今後、昆虫の分業システムのさらなる解明に加え、害虫であるシロアリの駆除手法への応用も期待される。

アリやハチなどコロニーを形成し社会生活を営む生物の多くは、王や女王などの「生殖カースト」と働きアリなどを含む「非生殖カースト」に分けられる。このような社会では、資源配分の偏りから、生殖カーストに栄養を集中させることが知られていた。しかし、その仕組みは長年謎のままだった。

研究チームは、繁殖に必要なタンパク質の材料である窒素に着目し、2つのカーストでその利用能力に違いがあるという仮説を立てた。研究対象のシロアリは、獲得した窒素を尿酸の形で体内に蓄積する。2つのカーストで、尿酸の代謝に関わる酵素の違いを調べると、尿酸を利用する上で最初に必要となる尿酸分解酵素の遺伝子が生殖カーストのみで高発現していると判明した。尿酸を利用するための「鍵」は生殖カーストの個体のみが獲得していたことになる。

次に、尿酸分解酵素の発現を抑制するなどの方法で、尿酸の分解を阻害した場合と、そうでない場合で女王が産む卵の数を比較した。結果、尿酸の分解を阻害すると、女王の産卵数が減少したことから、研究チームは尿酸の分解が繁殖に重要な役割を果たしていると結論づけた。また、働きアリから受け取った物質で満たされた女王の中腸を分析し、尿酸が検出されたことから、尿酸が「鍵」をかけられた状態で働きアリから供給されることを突き止めた。

本研究によって、シロアリのコロニーが生殖カーストに栄養を集める仕組みが解明された。今後、生物の社会維持メカニズムのさらなる解明につながることが期待される。加えて、研究チームは、シロアリの生殖メカニズムの解明にも寄与すると見込んでいる。

本成果は、 1月4日に英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal Society B」にオンライン掲載された。

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