文化

「ふくらみ」に充満する官能とユーモア  『ボテロ展 ふくよかな魔法』

2022.11.16

「ふくらみ」に充満する官能とユーモア  『ボテロ展 ふくよかな魔法』

《コロンビアの聖母》1992年

10月8日から、左京区岡崎の京都市京セラ美術館で『ボテロ展ふくよかな魔法』が開催されている。フェルナンド・ボテロは、今年で90歳を迎える南米コロンビア出身の芸術家だ。日本国内での展覧会は1996年以来26年ぶりとなり、ボテロ本人監修のもと、初期作から近年の作品まで70点が展示される。

ボテロは、静物・動物にかかわらず、あらゆるものをボリュームたっぷりにデフォルメして描く。ふくよかに熟れた果実はジューシーで観る者の欲望をそそり、ぽってりと肉づいた身体は、官能的で奔放な印象を与える。生命のエネルギーを溜め込んだ「ふくらみ」は、ボテロにとって美的な喜びの根源であった。そこには、理屈を抜きにした本能的な豊かさが宿っている。

一方、肉体的な豊満さと対照的に、人物の体の動きや表情は乏しい。特に目は、奇妙なほど小さく虚ろに描かれる。自我を感じさせず、周囲の状況に無頓着な様子は、まるで赤ん坊のようだ。理性を持たず肉体だけが豊かにふくらんだ大人たちの姿は、ユーモラスでもあり、皮肉めいても見える。しかし、その押し付けがましさのない表情が、むしろ絵の中の生をリアルなものにしている。ボテロはたびたび、生まれ育った中南米の貧しい人々を描いた。彼らの生活は危険と悲哀に満ちているが、その顔は相変わらず平然としている。観る者は、過酷に見える生活が彼らにとっての単なる現実であることを知り、素朴な表情の人々に、素直な共感を抱くだろう。

また、ボテロは、宗教的な題材も繰り返し扱った。《コロンビアの聖母》(1992)は、涙を流す聖母マリアと、その手に抱かれる少年イエスを描く。90年代コロンビアでは、内戦終結の見通しが立たず、マフィアの活動や政治的汚職が蔓延していた。ふっくらとした頬に流れるマリアの涙は、腐敗した祖国への嘆きだ。一方、イエスは手に、小さなコロンビア国旗を握っている。健やかで無邪気なその姿は、母国の未来への希望の象徴であろう。現実離れした表現と対照的に、扱う主題は現実的で社会的だ。

他にも本展示では、古典の名画をボテロのタッチで模写した作品や、近年制作に取り組む水彩画も鑑賞することができる。ボテロが突きつめる視覚的なボリュームは、困難に満ちた現実でも、アイロニカルに輝く原初的な幸福を示してくれるはずだ。会期は12月11日まで。平日は一般・大学生1700円、中高生1200円で、土日祝は一般・大学生1800円、中高生1300円(桃)

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