文化

大衆文化にみた儚さ アンディ・ウォーホル・キョウト

2022.10.16

大衆文化にみた儚さ アンディ・ウォーホル・キョウト

微笑むマリリンモンロー

9月17日から2023年2月12日まで京都市京セラ美術館新館「東山キューブ」で『アンディ・ウォーホル・キョウト/ANDY WARHOL KYOTO』が開催されている。約200点の展示作品などのうち、半数以上が日本初公開となる。

アンディ・ウォーホルは20世紀を代表する「ポップ・アート」の巨匠である。身近な暮らしの中にある商品や広告をテーマにするこの様式は、作者の内面や感情を画面にぶつけて神秘性を求める従来の手法に反発して生まれた。ウォーホルの生きた1960年代アメリカは大量生産、大量消費を基盤とする後期資本主義時代。画一的な商品で溢れる社会の中で、ウォーホルは手わざを感じさせない、機械的な冷たさを帯びた作品を作った。キャンベル・スープ缶のイラストをずらりと並べた初期の代表作はその象徴だ。

当展示では、代表作はもちろん、京都に関する作品も多く鑑賞できる。世界旅行中に京都に滞在したウォーホルは、清水寺や舞妓、生花などをスケッチした。最低限の線と色で構成されたスケッチは簡素でありながら特徴をうまく汲み取っている。大量の髪をまとめ上げ、重そうな着物をまとって眉をひそめる舞妓のスケッチには彼女たちの苦労が透けて見える。はたまた陰影を削いだ平べったい彼女たちは、その特徴的なシルエットゆえにチャーミングなキャラクターにも思えてくる。上品で妖艶な普段の舞妓からは窺い知れない一面だ。ウォーホルの手にかかれば、物事の新たな顔が浮かび上がってくる。

出口に近づくにつれ、序盤のポップな雰囲気とは打って変わって不穏な空気が立ち込める。部屋の中央に鎮座する電気椅子。鮮やかに着色された絶滅危惧種の動物たち。そして蠱惑的(こわくてき)に微笑むマリリン・モンロー。彼女は言わずと知れた超人気女優だが、その評価は外面的で空虚なものだった。パーマをかけた金髪に真っ赤なリップを携え、露出の多いドレスで着飾った彼女はセックスシンボルとして大衆の心を鷲掴みにした。一方人々は、彼女の人格や内面、演技力には無関心。表面的なイメージとして消費され尽くした彼女は36歳でこの世を去った。モンローの華やかなイメージと大衆による画一的な理解、そういった中身のない人工物感は当時のアメリカ社会と重なるところがある。複数枚に転写されたモンローの顔には、ずらりと並ぶキャンベル・スープ缶を重ねてしまう。

ウォーホルはビジネスライクに大衆の欲望を淡々と掬い上げる「時代の鏡」のようなアーティストであった。彼の作品を前にすると、芸術の知識などなくとも、大衆文化に潜む儚さが感じられることだろう。一般(土日祝)2200円。一般(平日)2000円。大高生1400円。中小生800円。(順)

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