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iPS細胞 ウイルス用いず作製 山中教授ら研究グループ

2008.10.23

iPS細胞研究センター長の山中伸弥教授らの研究グループが、従来の作製過程で必要だったウイルスベクターを用いずiPS(人工多能性幹)細胞を樹立することに、世界で初めてマウスで成功した。この研究成果は10月9日に『Science』のオンライン速報版で発表された。

iPS細胞は、繊維芽細胞などの体細胞に必要な3つの因子(Oct3/4, Klf4, Sox2)、もしくはそれらにc-Mycを加えた4つの因子を導入することで樹立される。因子を導入する際の遺伝子の運び屋として、従来ではレトロウイルスベクターが用いられてきた。これはウイルスが感染した細胞内で増殖する性質を利用したもので、目的遺伝子をウイルスに組み込み、細胞に感染させることで因子を導入する手法である。

レトロウイルスベクターは因子の発現効率がいいという利点があるものの、ウイルス自身の遺伝子までもがゲノムに挿入されるため、挿入部位付近の遺伝子発現に変化が生じ、細胞ががん化する可能性があるという問題点があった。ハーバード大学はこのレトロウイルスの問題点を克服しようと、外来遺伝子のゲノム挿入がほとんど無いアデノウイルスベクターを用いてiPS細胞を樹立することに成功、その成果を9月25日に『Science』で発表している。しかし、ウイルスベクターに共通の問題として、実験者への感染を防ぐため厳密に管理された実験室で作製する必要があること、目的遺伝子を搭載したウイルスの保存が困難なため実験のたびに作製する必要があること、コストがかかることなどが指摘されていた。

山中教授の研究グループは、ウイルスベクターに代わる遺伝子の運び屋として、2Aプラスミドを用いたiPS細胞の樹立に成功した。プラスミドは酵母などが持つ、核内の染色体とは独立した環状DNAであり、今回用いられた2Aプラスミドは目的遺伝子を連続して発現させる性質がある。研究グループは、3つの因子(Oct3/4, Klf4, Sox2)の搭載順や遺伝子導入のタイミングを詳細に検討することで、今回の発見に至った。さらに、作製されたiPS細胞には、外来遺伝子の挿入が認められないという実験結果が得られている。

プラスミドベクターはウイルスベクターよりも簡単に作製でき、さらに冷蔵庫で半永久的に保存ができるという利点がある。しかし、作製効率が従来のウイルスベクターを用いた手法の100分の1と低い。今後は、ヒトiPS細胞を同様の手法で作製できるかどうか検討するだけでなく、作製効率をいかに上げるかが課題となる。

山中教授は今回の研究成果を「iPS細胞の臨床応用に向けた大きな一歩」と位置づけながらも、「作製されたiPS細胞の全ゲノムを解読するなど、安全性についてはこれからも十分検討しなければならない」と、安全面については慎重な姿勢を見せた。

《本紙に写真掲載》

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