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京大OCW 停止へ 根拠の説明なく

2022.09.16

京大OCW 停止へ 根拠の説明なく

高等教育研究開発推進センター廃止後の業務の扱い

授業動画を無償公開してきた京大OCWが、9月末でコンテンツの追加を停止する。OCWを管轄していた高等教育研究開発推進センターが廃止されるためだ。すでに公開しているコンテンツは、教育推進・学生支援部教務企画課が当面のあいだ運用する。大学側は、廃止に至った具体的な経緯を明らかにしていない。

京大OCWでは、授業動画以外にも、研究会やシンポジウムといった様々な映像や資料を公開しており、誰でも閲覧できる。15日時点では、ユーチューブチャンネル上に6千本以上の動画と約10万人の登録者を抱えている。

OCWは、マサチューセッツ工科大学(MIT)が2001年に発表した仕組みだ。創設者のひとりである宮川繁・MIT教授の紹介を受け、05年、京大を含む6大学が日本で初めて導入した。宮川教授は本紙の取材に対し、京大OCWについて、膨大なコンテンツ数やユーザー数を有し、ユーチューブの活用といった革新をもたらしたと指摘し、「世界でも主要なOCW」であると評価した。また、京大が教育面で広く認識されるようになったのは、OCWの影響があるとの見解も示した。今後の運用については、「既存のコンテンツをフルにサポートし、新しいコンテンツも追加していくことを願う」とコメントした。OCWのようなオンライン教育のコンテンツは、技術革新に対応する必要がある現代で「大学生や社会人にとって欠かせないプログラム」であると指摘している。

京大OCWの運営担当者は、サイト上で「教育のオープン化に関わる取り組みが広がってくる」と述べ、その一端を担ってきた京大OCWが終了することが「残念でならない」と表明している。

また、無料の大規模オンライン講義(MOOC)も、ほとんどが提供を終了する。成績を測り修了証を発行するという点で、視聴するだけのOCWと異なる。

飯吉透・高等教育研究開発推進センター長によると、7月11日にOCWやMOOCを引き継がない旨を理事から言い渡された。その際、判断の根拠についての説明はなかったという。8月24日には、OCWの他部局への移管が決定した。京大は本紙の取材に対し、今後の扱いについては「検討中」としている。

高等教育研究開発推進センター 廃止へ


高等教育センターが9月30日付で廃止される。1994年に設立され、研修やIT環境の整備、教育に関する情報発信に取り組んできた。廃止は、1月25日に役員会が決定していた。多くの業務が移管されずに終了するが、飯吉センター長によると、具体的な理由を説明されなかったという。

京大で提供されている研修制度の一部は、高等教育センターによるものだった。新任教員に向けたセミナーや、教育に携わりたい大学院生に向けた研修講座などが開かれてきた。

学外への情報発信にも取り組んできた。「あさがおメーリングリスト」では、大学教育に関する情報やイベントの案内を配信してきた。また、毎年開催の「大学教育研究フォーラム」では、教育改善に関する施策を共有してきた。このフォーラムは開催継続が決定している。

情報通信技術の活用も推進してきた。「Teaching Online @京大」では、コロナ禍に際して、オンライン授業に関する知見を教員向けに紹介し、2021年時点では累計約87万PVを記録した。

飯吉センター長によると、21年10月に企画委員会の審議を経て、11月に関係者は廃止予定の告知を受けた。そして22年1月の役員会が、9月末での廃止を確定した。

廃止の経緯に関して京大は、高等教育センターを含む「全学機能組織」を固定的な組織として扱わず、一定期間ごとに評価して方針を決定していると説明したうえで、詳細については回答を差し控えた。

飯吉センター長は本紙の取材に応じ、世界の大学で教育DX(デジタル化による変革)が進むなか、高等教育センターの廃止決定は、「時代に逆行している」と批判した。そのうえで、廃止の理由や、今後どのように全学的な教育支援やDX推進に取り組むかについて、執行部は示すべきだと強調した。

また、企画委員会から20年に受けた評価では、存続上の問題は指摘されなかったと明かした。課題として各部局と協働体制の構築を求められたが、組織として対応してきたという。

存続求める署名 始まる


高等教育センターの機能存続を求める署名が8月31日、署名サイト「Change.org」で始まった。呼びかけ人は、教育工学専門の村上正行・阪大教授ら。9月15日時点で、1万人以上が賛同している。

村上教授はサイト上で、京大は、「大学教育に果たしてきた役割を切り捨てた」と非難した。また、長年かけて築かれた制度を「一度失ってしまうと再度構築することは難しい」と述べ、機能存続を訴えた。

村上教授は本紙の取材に対し、高等教育センターの廃止の影響で、「京大のリソースを参考にしたり、コミュニティに参加したりしていた他大学にとって機会の損失になる」と指摘する。さらに、研究を重視する大学で、教育を軽視する風潮がより強まるのではないかとの懸念を示した。

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