人生を肯定した人々 「ポンペイ展」(2022.06.01)

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4月21日から7月3日まで、左京区にある京都市京セラ美術館で「ポンペイ展」が開催されている。当展は、イタリアにあるナポリ国立考古学博物館が所蔵する約120点もの遺物を出品しており、いわば「ポンペイ展の決定版」と位置付けられている。街中のあらゆるところに掲示されているポスターでその存在を知った人も多いであろう。

ポンペイとはイタリアの首都ローマから南東方向に約250㌔進んだ地に位置する都市の名称である。都市周辺では果樹栽培が盛んで、特にポンペイのワインやオリーブ油は有名だった。港町として栄え、約1万人の人口を誇った古代都市ポンペイは、紀元後79年、突如その姿を消した。付近に位置するヴェスヴィオ山が大噴火。都市は大量の火山灰と火山礫に飲み込まれたのだ。しかしポンペイの名を一躍有名にしたのは、それが理由ではない。吸水性の高い火山灰が乾燥剤の役割を果たした結果、地中に埋もれたポンペイには当時のローマの人々の生活様式がほぼ完璧な形で保存されていた。幸か不幸か、火山活動の犠牲となったこの都市は、2千年の時を経て世界中の人々に驚きと感動を与えることになったのだ。

さて、ポンペイ展は3部で構成されており、ローマ時代の人々の生活、思想、社会制度などを伝えている。皿、金槌、テーブルなどの日常的な道具から、奴隷用の拘束具など、奴隷が生活の基盤を担っていたローマ社会ならではのものまで幅広く展示されている。並べられた陶器の器は息をのむほど色鮮やかで、デパートの陳列棚に並べられていても遜色ない。それも乾燥剤の役割を果たした火山灰のおかげだ。

さらに人々の目を引くのが、今にも動き出しそうなほど繊細で力強いモザイク画である。石やガラスの小片を敷き詰め、幾何学的模様やポンペイに生きる人々が描かれている。壁一面に所狭しと並ぶ大小様々なモザイク画の中に、一際不気味な色味を帯びた画がある。「メメント・モリ」、すなわち「死を忘れるな」と名付けられたその画には、死と隣り合わせの古代ローマに生きる人々の気概が込められている。正面の巨大な骸骨に向かって左には富と権力の表象、向かって右には貧困の表象が配されている。死を表す骸骨に向かい合えば、裕福なものも貧しいものも皆着ぐるみを剥がされ一つの有機体に成り下がる。それをローマの人々は常に肝に銘じていたのだろう。

今日の社会では、科学技術の進歩により寿命が大幅に伸びた。同時に現代に生きる多くの人々は、死という忌み嫌われるものを社会から排除し、徹底的にその存在を隠した。人間は動物であることを忘れ、永遠の命を持っているかのように生活を送るようになった。それでもふとした瞬間に襲ってくる死への畏怖。我々は死にどう向き合うべきなのか。それを恐れ、陰鬱な空気に飲まれるべきなのか。古代ローマ時代の人々は「メメント・モリ」をそんな気持ちで描いたのではなく、いつ終わるかわからない生を全力で肯定し、今日を楽しむことを自らに命じるためにこの画を描いたのだろう。

確かに未来を忘れて、今を生きることは難しい。死が遠く離れた現代にとってその生き方は非合理的なのかもしれない。しかし、たまには今その瞬間のために生を楽しむことも大事なのではないか。そんなことに思いを馳せたポンペイ展だった。入場料は大人2千円、高大生1200円、小中生800円。(順)

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【テーブル天板。通称「メメント・モリ」】

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