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光合成しない藻類 全ゲノム解読 「植物とも動物とも異なる」

2022.06.01

神川龍馬・京大農学研究科准教授らの共同研究グループは4月26日、地球全体の光合成のうち約20%を担う珪藻の中で、光合成をやめた種の全ゲノム解読に成功したと発表した。今後、地球上の様々な生物の進化の仕組みを解き明かすとともに、光合成の役割やその利点を理解する助けとなることが期待される。

地球上の多くの植物や藻類は葉緑体で光合成を行い、得られたエネルギーで生命活動に必要な物質を産出している。他の生物を食べる必要のない点が利点だとされる一方、進化の過程で光合成をやめた種も存在している。本研究ではそれらの種のうち、他の生物に寄生しない藻類である珪藻ニッチア・プトリダに着目した。

研究では、グループが独自に培養した珪藻株ニッチア・プトリダPL1‐1株を対象に、長短異なる配列を読むことができる2種類の次世代シーケンスデータを組み合わせて高品質なゲノム配列を得た。その遺伝子領域を推定した結果、近縁な光合成性珪藻と比べてゲノムサイズ、遺伝子数ともに減少が認められないことが判明したため、遺伝子数は光合成の有無には影響しないと考えられるという。また、光合成に関わる遺伝子は検出されなかったものの、依然として葉緑体が存在し、アミノ酸など生存に必要な物質の産生を行っていた。加えて、細胞膜の機能について、細胞外から養分を吸収する遺伝子や細胞外で環境変動の認識などに機能する遺伝子が独自の進化を遂げていることが判明した。

これまでに研究が進められた非光合成性の生物としてマラリア原虫が挙げられる。これは寄生相手から生存に必要な物質を得ているため、葉緑体ではほとんど物質の産生をしないことが知られている。一方、ニッチア・プトリダは葉緑体で細胞の材料となる物質を産生しながらも、エネルギー源となる炭水化物を周囲から吸収する。研究グループは、この点でニッチア・プトリダは植物とも動物とも異なると考えられると指摘し、生物の進化の新たな可能性が示唆されたとまとめている。

この研究成果は4月29日に国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載された。

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