企画

京大近所探訪VOL.7 高野第三住宅集会所(左京区高野東開町)

2022.03.16

ショッピングセンター・洛北阪急スクエアの斜め向かい、集合住宅の敷地の一角に目を向けると、赤れんがが彩る重厚な建物が目に入る。明治に創業した紡績会社・鐘紡のボイラー室跡で、現在は東大路高野第三住宅の集会所として利用されている場所だ。

鐘紡は1887年に東京で設立された紡績会社である。高野川沿いの一帯にれんが造の京都工場が建てられたのは1908年、三越日本橋本店などの建設を手がけた横河工務所が設計した。操業開始の5年後には、従業員数が3400名を超えたという。

だが1975年に工場は閉鎖、敷地は日本住宅公団に引き渡され、京大出身の建築家・川崎清氏を中心に団地の建設計画が進められた。のこぎり型の壁の一部とボイラー室を改築し保存したほか、新築する集合住宅の壁にれんがタイルをあしらったことで、かつての工場の面影を留める、情趣ある住宅街へと生まれ変わった。

集会所の前には木々あふれる広場があり、れんが壁の裏手には多くの地蔵が並ぶ。第三住宅の管理組合で理事長を務める窪田和美氏によると、地蔵菩薩は京都工場の時代から残っているもので、夏には地蔵盆に因んだ「団地まつり」を開催しているという。「集会所が鐘紡の工場跡だと知っている住民は、あまりいないと思います」と氏は語ったが、広場で駆け回る子どもたちのただ中に佇み、人々の暮らしに静かに寄り添うその姿には、えもいわれぬ威厳と魅力がある。(凡)

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【保存された集会所とれんが壁】

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