文化

〈映画評〉再び迫る、盲目の老人の恐怖 『ドント・ブリーズ2』

2022.02.16

本作は、2016年にアメリカで公開されたサイコ・スリラー映画『ドント・ブリーズ』の続編である。前作は、低予算ホラーながら北米映画興行収入ランキングで2週連続首位に立ち、話題をさらった。前作の主人公は、強盗目的で人気のない家に忍び込んだ3人の若者である。その家には、かつて戦闘中に怪我を負い盲目になった退役軍人の老人がひとり住んでいた。盲目でありながら、それを補う身体能力と鋭い感覚を持つ老人は、強盗たちの侵入に気がつくと、家中の出口を塞ぎ武器を手にして侵入者の捜索を始める。表題の通り、息もつけないほどの緊迫感に包まれた、命懸けの脱出劇であった。

一転して本作は、強盗たちとの戦いを終え数年が経った老人の日常から始まる。前作を特徴づけた老人のミステリアスな狂気を期待していると、周囲の人間と会話を交わす人間味ある様子に少々拍子抜けする。しかし、ヒットを記録した前作の演出にとらわれず、観客が老人に感情移入できるようなシナリオを作る挑戦は面白い。老人は、なぜか12才ほどの少女と共に暮らしている。少女の外出を極端に嫌がり家に閉じ込める老人と、少女に興味を持つ謎の男たちの影。ホラー映画らしからぬ穏やかさの背後に、不穏な空気が満ちている。

そんな前半部で溜まったもどかしさを晴らすように、中盤から終盤へかけて、立て続けに新たな事実が判明する。少女をつけねらう不思議な男らの正体は、少女の実の両親とその仲間たちであったのだ。少女は、父親だと信じていた老人が、少女を誘拐した犯人であることを知る。男らと老人の死闘の末、老人の家から連れ出され、両親らの元にかくまわれた少女。しかし、どうにも様子がおかしい。両親たちは本当に少女の味方なのか。本作は、密室のなか逃げ回る王道のスリラー映画であった前作と比べて、パニック展開は弱い。しかし、結末へ向けて敵味方が交錯し最後の最後に真の味方が明かされるシナリオ構成が緊張感を生み、飽きることなく楽しむことができる。

前作と共通する本作の特徴は、通常は戦闘に不利な「盲目」という条件が一転して有利にはたらく舞台転換を要所で差し込み、スリルを増幅させていることだ。例えば前作では、老人が家中を停電させて強盗たちの視覚的アドバンテージを奪う演出により、暗闇をものともせず迫る老人の不気味さを印象的に表現した。他方、本作では、転換の装置として水が効果的に使われる。物語終盤、床が水浸しになったうす暗い倉庫のような空間に倒れ込む老人に、両親らの仲間が銃を打ち込む場面。目が見えない老人に銃弾を打ち込むことなど容易と思いきや、老人は、床を覆った水が敵の動きに合わせて波打つ感覚で敵の位置を察知し、返り討ちにする。触覚的な表現が巧みである。

第1作88分・第2作98分と比較的短い作品なので、ぜひ2本連続でお楽しみいただきたい。両作品とも、単なるサイコ・スリラーにとどまらない、ひねりのあるストーリーが魅力である。(桃)

作品情報 製作年:2021
製作国:アメリカ
上映時間:98分
監督:ロド・サヤゲス

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