ニュース

生命研 スーパーコンペティションを解析 がんの新治療法開発へ

2022.02.16

永田理奈・生命科学研究科研究員、井垣達吏・同研究科教授らの研究グループは2月7日、前がん細胞が周囲の正常細胞を駆逐する「スーパーコンペティション」の仕組みを明らかにしたとする研究成果を発表した。今後、がんの新しい治療法の開発につながることが期待される。

スーパーコンペティションとは、前がん細胞が、周囲の正常細胞の細胞死を誘導して領地を拡大していくことであり、以前から知られている現象だった。しかし、そのメカニズムやがん化における役割は明らかになっていなかったという。研究グループは、ショウジョウバエにおいてがん促進タンパク質のYorkieが活性化すると前がん細胞になることに着目した。その結果、前がん細胞では、特定のマイクロRNAの発現が上昇して、タンパク質合成能が高まっていることが確認された。また、こうした前がん細胞の挙動によって、周囲の正常細胞にオートファジー(自食)が誘導され、細胞死が起こることが判明した。

前がん細胞でタンパク質合成能が高まった後に、周囲の正常細胞でオートファジーが引き起こされる仕組みは、まだ明らかになっていない。研究グループは、特定のタンパク質が作用しているというよりは、タンパク質合成が全体的に活発化すること自体が影響しているとする仮説を考えているという。タンパク質合成の活発化により、アミノ酸やエネルギーを大量に使うため、細胞活性の変化につながり、これが何らかのシグナルに変換されている可能性がある。

ショウジョウバエと同様の分子群がヒトにもあるため、今回スーパーコンペティションの仕組みを明らかにしたことが、がんの新治療法開発に寄与する可能性がある。マイクロRNAやオートファジーを阻害すれば、前がん細胞のスーパーコンペティションを抑え、がんの拡大を防ぐことにつながる。井垣教授は報道発表の記者会見で、「従来のようながん細胞を殺す治療ではなく、正常細胞側に作用してがんを止めるという新しい戦略の治療法が開発されるかもしれない」と話した。この研究成果は、米科学誌「Current Biology」にオンライン掲載された。

関連記事