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生態学研 共生の相乗効果を発見 2種の真菌で植物の成長促進

2021.11.01

堀淑恵・生態学研究センター元修士課程学生、東樹宏和・同センター准教授らの研究グループは9月13日、真菌1種を植物に接種した場合と、真菌2種を様々な組み合わせで接種した場合で植物の成長を比較したところ、後者の場合に相乗効果や相殺効果といった複雑な反応が観察されたとする研究成果を発表した。今後、持続可能型の農林業を設計する際に、植物に共生する微生物の組み合わせを効果的に用いるための重要な知見となることが期待される。

研究グループは13種の真菌を用いて、1種を単独で植物に接種した13通りと、2種を組み合わせて植物に接種した78通りで、植物の成長を比較した。真菌を単独で接種したとき、13種のうち約半数において非接種の場合と比べて明らかな成長促進が見られた。こうした単独接種で成長促進効果を持つ真菌同士を組み合わせて接種したとき、単独接種と比べて効果が小さくなる「相殺効果」が観察される場合があったという。また、単独接種では成長促進効果がみられなかった真菌を組み合わせたときや、単独接種の効果が強い真菌と弱い真菌を組み合わせたとき、効果が非常に強くなる「相乗効果」が観察される場合があったという。

真菌は、植物に窒素やリンといった養分を供給したり、乾燥や高温ストレスに対する植物の耐性を高めたりと、植物と密接な関わりを持っているとされる。こうした植物と真菌の共生について、従来の研究では真菌の中でも菌根菌に着目されてきた。しかし、地下共生系でみられる現象の一部しか解明されておらず、菌根菌以外にも内生菌や土壌菌が何らかの役割を担っていることが明らかになりつつあるという。本研究で用いられた13種の真菌は内生菌や土壌菌であり、植物と真菌の共生についての新しい知見に寄与する可能性がある。また、本研究で真菌の組み合わせを評価した結果、複数の共生者がいる場合の効果は、共生者が1種のみの場合の知見からは予測しにくいことが示唆された。従来は、植物に有用な微生物開発の際には、1種を植物に接種する実験によって評価されてきたが、こうした手法では2種以上が存在する条件における微生物の重要な機能を見落とす可能性があることが分かったという。

研究グループは報道発表の中で、本研究で合計2千個体以上の植物を用いて実験したことをふまえ、「泥臭い作業にみえても、膨大なデータを得ることでしか手に入れられない科学の土台があるのだと感じる」とコメントしている。この研究成果は、国際学術誌「Frontiers in Microbiology」にオンライン掲載された。

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