〈映画評〉革命的な新世代ガンダム 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(2021.09.16)

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『機動戦士ガンダム』と言えば、白をベースとした赤、青、黄のトリコロールカラーのまぶしい巨大ロボ・ガンダムが、「巨大な敵」を打ち倒す単純な勧善懲悪型の戦記物アニメーション、という印象を持たれている方も少なくないだろう。確かにそういった面もあるが、しかし、ガンダムシリーズの真の姿は、西暦の終わりから増えすぎた人類を宇宙に追いやりはじめた地球連邦政府と、宇宙に浮かぶ「スペースコロニー」で暮らすようになった宇宙移民との間で生まれる階級・思想・地域間対立を軸に描かれる。そこに善も悪もない。

そんなガンダムシリーズの最新作、『閃光のハサウェイ』が大ヒット上映中だ。直系の前作となる『逆襲のシャア』から実際の時間では30年、劇中時間では12年が経過した宇宙世紀105年を舞台とする。強制的な宇宙移民が進んだ結果、官僚や政治家、限られた上流階級のみが地球に残ることになり、彼らへの反抗組織である「マフティー」が、政府高官の暗殺などを含め反政府運動を続けていた。主人公ハサウェイ・ノアは月から地球へのシャトル「ハウンゼン」の中で、謎の少女ギギ、地球連邦軍大佐ケネスと出会い、ハウンゼンで起きた数奇な運命を共にする。三人の間には三角関係が出来上がるが、実はハサウェイには地球連邦政府の秩序を乱すテロリスト「マフティー・ナビーユ・エリン」としての顔があった。

主人公が陰で多くの命を奪っているという点が今作を際立たせる最初のポイントだ。テロリストという、極端でスリリングな主人公像、そして予想される悲惨な行く末が、人々の心を打つ。

人気を呼ぶ点は他にもある。その一つが、高いクオリティーで提供される映像や音楽である。制作陣は本作の舞台となるオーストラリアや東南アジアを実際に訪れ、入念に現地を調査した。そのため劇中の映像はアニメであるのに、もはや実写かと疑うほど、リアルで美しい。音楽は、『進撃の巨人』『プロメア』などの劇中曲を作成した作曲家・澤野弘之氏が担当する。公式に無料で公開されている冒頭のシーンでは、ハサウェイを載せたシャトル「ハウンゼン」が大気圏に突入し地球に降下する映像と、澤野氏が手掛ける雄大な音楽がマッチし、観客にこの先に起こることへの期待感と、作品への没入感をもたらす。また、マフティーの所有する「メッサー」部隊が官僚たちの滞在する都市を強襲するシーンでは、疾走感と浮遊感あふれるボーカル曲がメッサーの登場とともに流れはじめ、それまでに溜めていたフラストレーションを一気に解放するようなカタルシスあふれるバトルが展開される。これらのシーンはぜひとも映画館でご覧になっていただきたい。

1970年代に放映された初代ガンダムをはじめとするガンダムシリーズは、いま作り手の世代交代が起きている。振り返ってみれば、2010年代初頭に人気を博した『機動戦士ガンダムユニコーン』は子どものころにリアルタイムで初代ガンダムを見ていた世代が制作に回っていた。原作の福井晴敏氏はその最たる例だ。本作はその世代交代の流れをさらに推し進めたもので、初代『機動戦士ガンダム』の総監督を務めた冨野由悠季氏は原作小説を執筆したものの、映画制作には関わっておらず、監督は1964年生まれの村瀬修功氏に任されている。映像作品としてのガンダムシリーズの制作が本格的に冨野氏の手を離れ、新しい世代がその歴史を紡いだ結果、本作が誕生した。このように、映画『閃光のハサウェイ』は新世代のガンダムとして、ガンダムシリーズの時計の針を大きく動かした。本作のラストで描かれる、ギギがハサウェイの残していった時計に電池を入れ、針が動き始めるシーンにはそんな意味もあったのではないだろうか。

本作は『劇場版機動戦士ガンダムめぐりあい宇宙(そら)』が打ち立てたシリーズ最高興行収入に既に肩を並べ、いまだにその数字を伸ばしている。全三部作を予定しており、今作は壮大な物語のまだまだ導入の部分だ。第二部のタイトルは「サン・オブ・ブライト(仮)」となることが発表された。ブライトの息子ともブライトの太陽ともとれるそのタイトルからは、第二部にハサウェイの父でありガンダムシリーズの常連でもあるブライト・ノアが重要人物として登場することが推測できる。現在鋭意制作中とのことで放映時期は未定だ。私も含む一部ファンの、「一見さんお断り作品になりはしないか」という事前の危惧も杞憂に終わり、本作はこれまで同シリーズを見たことがない層も楽しむことのできる作品となっている。この機会に、ガンダムシリーズという果てしない宇宙に駆け出してほしい。(航)

製作年:2019年
上映時間:95分
監督:村瀬修功

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