インタビュー

得たものも多く、改善点も多く 「五月祭」実行委員が振り返る

2021.07.01

京都大学法学部五月祭が6月12日・13日に開催された。五月祭はコロナ禍の中、学生たちが自主的に活動を行い、およそ20年ぶりに復活させたという点で開催以前から注目されていた。しかし、6月8日に法学部はメールで五月祭開催について注意を喚起し、開催強行後にはその運営、実行に携わった者を非難する声明を発表した。本紙は6月23日、渦中の五月祭実行委員会にインタビューを行った。(航)

目次

    「想像以上」の反響があった
    「直接的にやめろと言われたわけではない」
    生配信ではいくつかの問題も
    大学側の対応は
    課外活動等の実施における感染拡⼤予防マニュアル(第7版)抜粋


「想像以上」の反響があった

実行委員会の梁瀬さんは「まずは二日間の開催が無事にできてよかった。ゼロから作り上げたという点で自信のようなものは感じている」と話す。来場者の反応の良かった企画については、実行委員会のメンバーは異口同音にユーチューブ生配信企画の「六法グランプリ」を挙げた。主に六法や法学部に関するお題に対し、参加者がチャット欄でネタを披露する六法グランプリは、同時接続数が最大で100を超えた。対面形式では、モルック大会などの来場者参加型で体を動かす企画が盛り上がったという。しかし、ユーチューブの企画では、参加者の間ではよく盛り上がったが視聴者には不評だった企画もあったことを明かした。「内輪で楽しんでいるだけの企画もあった」と実行委員は反省の弁を述べる。

二日間合わせて会場には300人を超える来場者があった。実行委員会は「想像以上だった。他学部の学生や家族連れで来場した人もいたようだ」と話す。12日に法学部の森川輝一教授がイベントに登壇した際に「学生主体でこういったイベントを開催するのは素晴らしい」と評価したことが印象的だったという。また、「学生と繋がれていない法学部の学生が来場して、友達ができたというような話を聞くと嬉しく思う」と続けた。

ライブ会場に使用されたテントなどの設営作業は開催当日の朝に行った。一日目が終了したのちに設備を一度撤収することはせず、実行委員会のメンバーが寝ずの番をして機材の安全を確保した。これに関して実行委員は「次回以降、そのようなことをしないで済むように改善したい」と話す。またそれぞれの設備は、熊野寮と農学部の自治会から援助を得ていたと明かした。梁瀬さんは熊野寮との関係について「熊野寮主催で昨年に開催されたニセNFも五月祭プロジェクトを思いつくきっかけの一つだった」と述べる。

当日は雨が降った時間帯もあり、前もって用意していたテントを迅速に増設して雨除けとした。この行動について来場者からは実行委員会の本気度を感じたと高く評価されたそうだ。会場では食事を禁止し、水分補給のみを許可していた。会場のチェックは厳格に行い、アルコールを摂取する来場者は確認されなかった。
当日の会場では、京都市新型コロナあんしん追跡サービスを利用した感染対策をとった。来場者全員に登録を要請したが、会場を単に通行しようとする者にまでは強要しなかった。

五月祭が開催された12日以降に新型コロナウイルスへの感染が発覚した来場者の有無に関して、実行委員会は開催から約2週間が経過した6月29日に、実行委員及び参加者から新型コロナウイルスへの感染者は出なかったと発表した。

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「直接的にやめろと言われたわけではない」

開催前後に学部教務が出した通知についても聞いた。

6月8日付のメール
今週末に法学部学生有志により「五月祭」が開催されるとの情報があります。

現在京都大学では、学生の皆さんに対して「有観客での試合、講演、集会など」の自粛が要請されていることを改めてお伝えします。法学部生の責任ある行動を求めます。

なお、「京都大学法学部五月祭」とされているようですが、法学部が主催等するものではないこと、施設などの利用について許可をしていないことを申し添えます。     
6月8日 法学部長


まず6月8日に送られてきたメールについて、実行委員会はこのように話す。「メールには「責任ある行動を求めます」とあるが、直接的にやめろと言われたとは認識していない。学部教務からは、止める権限はないと前々から言われていて、その再確認のようなものと認識している」

6月14日付のメール
先週末、法学部から6月1日付及び8日付で行われたKULASIS及びメールによる告知を聞き入れることなく、「五月祭」の対面開催の部分が法経本館南側の中庭にて強行されました。

全学の課外活動自粛要請(4月19日付け通知「課外活動の自粛要請について(第7版)」「課外活動等の実施における感染拡大予防マニュアル(第7版)」)に反すること、施設などの利用について許可がないことを知りながら、この間、法学部に対して一切の弁明などをしないままに開催に至ったことは、法学部で学ぶ者の態度として強く非難されるべきものです。

また、大学敷地内に無許可でステージを設定したうえ、大音響でライブを行ったことは、平日以外であっても、大学では教育・研究活動が継続して行われていること、図書館で勉学に勤しむ学生がいることを理解せず、学習、教育、研究に多大な支障を生じさせるもので、大学で学ぶ資格すら疑われる所業です。

ここに、「五月祭」の運営、実行に関わった者に強い遺憾の意を表し、反省を求めます。         
6月14日 法学部長


続いて6月14日に出された開催を非難する声明については、「協議中なのでノーコメント」としたうえで、声明中にある「大音響でライブを行ったことは、(中略)大学では教育・研究活動が継続して行われていること、図書館で勉学にいそしむ学生がいることを理解せず、学習・教育・研究に多大な支障を生じさせるもの」という指摘に関して、「ライブなどのリハーサルに関して、前日以前に行うと騒音などで授業の邪魔になるため、休日となる当日の午前中に行っている。実際に図書館に行き、我々の感覚では思ったより騒音はないとは考えたが、問題にならないレベルだというデータを厳密に騒音計などでとったわけではない。次回は何かしらの対策はしなければならない」と話した。(編集部注:なお6月29日に出された実行委員会の声明には「騒音に関して、今のところ苦情は届いていません」と記されている。)

声明で大学側はステージの設置や開催自体が無許可だと主張している。しかし、開催前に本紙が取材した際、実行委員会は「当局から開催の容認を得ていた」と説明していた。当局の声明と食い違っているが、実行委員会はどのような見解なのか。

実行委員会は3月17日に五月祭開催に関する交渉のため、法学部教務窓口に赴き、その時点での企画書を提出した。法学部教務は、「そもそも土日の教室の利用はコロナ禍でなくても許可されない」と述べたうえで、五月祭の開催と中庭の使用については「止めはしない」と言ったと実行委員会は主張する。その時点で、許可が出たと認識したという。その後毎日新聞の取材に答え、5月24日に「実行委員会は屋外での開催を条件に五月祭開催の許可を大学から得た」という内容を含む記事が出た。その後5月26日に法学部教務から「私たちには許可する権限も止める権限もない。そのため、五月祭の開催について私たちは許可できない」との指摘があったが、実行委員会はその通達を以前から言われたことの繰り返しと認識し、開催に向けて動いた。本紙の取材に対して実行委員会は「文面には「やめなさい」というような強制力のある言葉は出ていなかった」と述べたうえで、次のように続ける。「だがそもそものことを言えば、「許可」をもらったとは言えないのが実情だ。これは軽率な行動だったと反省している。迷惑をかけた人には謝罪したい。学生を信じ、一任してくださった法学部教務掛のやさしさには感謝している」

5月26日の通達以降、学部教務から音沙汰はなかった。実行委員会が次に受け取ったメッセージは6月8日に法学部に所属する学生全員に送信された「法学部生の責任ある行動を求めます」というメールだ。

6月14日に発された声明には「法学部で学ぶものの態度として強く非難されるべきものです」とあった。今後の京都大学・法学部の対応への危惧に関して、「今までの発言を信じるなら、我々に不利な扱いをすることはないと思う」と実行委員会のメンバーは話す。

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生配信ではいくつかの問題も

開催当日は、ユーチューブを利用した企画が多く行われた。その中で「参加者から問題のレベルが高いというコメントをいただいた。京大らしく楽しかったと言われた」というクイズ企画では、参加者の顔が並ぶZoomの画面をそのままユーチューブで配信していた。その際、一人の参加者の私生活が映り込む状態が続いた。ツイッターではその様子を収めた画像が拡散された。これについて実行委員会は、「なるべくカメラをオンにして参加をすることを求めていた。ライブ配信をすることは知らせていたし、その危険性も参加者には事前に伝えておいた。そのうえで許可を得ていた」と釈明する。当該学生には、謝罪した上で法的措置を含めて事後対応に協力すると申し出たが、「穏便に済めばよいと返答があったので、それ以上は何もしていない」という。またツイッター社に当該投稿の削除も依頼した。事前の了解はあったとはいえ、一学生の私生活が予期せぬ形で公開され、配信体制の課題が露呈する事態となった。

実行委員会は12日の昼の企画でユーチューブライブチャット機能を広く一般に開放していた。「見てくれる人が盛り上がるように開放していた」というが、参加者の容姿・人格を侮辱する内容のコメントを残すアカウントもみられた。実行委員会は「被害を受けた方への謝罪は行い、一部企画を除きチャット欄の閉鎖もした。悪質な投稿をしたアカウントの特定まではしていない」と話す。次期実行委員長の中村さんはユーチューブを使った企画に関して「六法グランプリ以外の同時接続数が少なかった。周知をしっかり行い来年以降はいろいろな人がずっと見てくれるような企画にしたい」と次回に向けての決意を表明した。
開催前には第二回第三回と続けていくとのことだったが、実行委員会はこれについて「気持ちに変わりはない。しかし、学部教務には許可する権限はないと言われてしまったので、公認云々は問題にならないと考えている」と話す。

最後に、第二回の五月祭に向けて次期実行委員長の中村さんはこう答える。「学部祭ということを忘れてはならないと思う。規模をあまりにも大きくしてしまうと、全体の企画としてクオリティが下がるかもしれない。何より法学部生のつながりを重視する第二回にしたい」
なお、6月29日に五月祭実行委員会はツイッター上で、自らに許可の権限はないとする旨の学部教務からの発言を踏まえたうえで「五月祭は学生が主体となって自由に開催できる祭であることが確認されました。これは来年度以降の五月祭をより自由に開催できる何よりの根拠ともなります」との声明を発表し、併せて「京都大学法学部五月祭における自主祭の理念」という宣言も掲出した。以下に全文を掲載する。

「京都大学法学部五月祭における自主祭の理念」
五月祭実行委員会は以下の宣言を掲げる。

京都大学法学部五月祭(以下五月祭)とは、京都大学法学部生を中心に京都大学の全学生及び周辺の住民の方々が交流し、楽しむ場を提供するためのものである。そして、準備・開催を通して、縦横内外問わず、人と人との繋がりを生み出すことを目指すものである。

五月祭は、法学部生からなる五月祭実行委員会を中心に、学生が主体的に創りあげるものであり、広く全ての人に開かれたものでなくてはならない。

そのため、五月祭実行委員及び五月祭参加団体、もしくは学生個人に対して、なんらかの外部団体から干渉が行われたり、五月祭がその意義に反する活動を行う場になったりしてはならない。

五月祭実行委員会は、五月祭を学生の自由で主体的な活動と、人との交流を生み出す場であると位置づけ、その達成のために尽力することをここに宣言する。


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大学側の対応は

法学部五月祭は、当初掲げた学生のつながりを作るという目的については幾ばくか達成したのではないだろうか。しかし、開催方法に全く問題がなかったとは言えないだろう。

五月祭開催当時に全学に出されていた課外活動向けマニュアルでは活動できる条件として全学公認団体の活動であることを定めているが、実行委員会は非公認の団体に当たる。また、公認団体であっても活動計画の提出が求められ、そのうえで「有観客での試合、公演、集会」は原則として認められない。活動時間についても、準備・片づけを含んで原則として 1⽇当たり3時間以内でなければならないとされている。

マニュアルとの兼ね合いに関して課外活動掛は本紙の取材に対し、広報課を通して「法学部が対応されている案件であることから、回答することはございません」と答えた。そのうえで、法学部学部教務掛は、「法学部学生有志が私的に行った「五月祭」について、法学部としては、6月8日、6月14日に法学部生へ告知したとおりであり、対面開催した事実を確認しているところであるため、回答を差し控えさせていただきます」とコメントした。

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課外活動等の実施における感染拡⼤予防マニュアル(第7版)抜粋

(1)活動できる条件
(a)全学公認団体の活動で、当該団体に所属する本学学⽣のみが参加するものであること
(b) 屋外における活動であること 学内での活動場所は以下の施設に限定し、それ以外の場所での活動は認められません。ただし、事前に⼤学に申請し、特定の場所で⼀時的に活動する場合は許可することがあります。
・北部構内:グラウンド(ライフル射撃場を除く)、⾺場
・吉⽥南構内:グラウンド、テニスコート
・⻄部構内:プール、⾃動⾞部ガレージ
・薬学部構内:バレーコート、硬式テニスコート、⼸道場、アーチェリー場
・その他:宇治グラウンド、⽯⼭艇庫、瀬⽥艇庫、⼤津ヨット艇庫
*上記の場所での活動は、活動計画書に記載し許可を得たものに限ります。
(c)活動時間が原則として 1 ⽇当たり 3 時間以内(準備・⽚付けを含む)であること
(2)活動に当たっての遵守事項 以下の事項を必ず遵守して活動を実施してください。違反が認められた場合には、団体の活動 を停⽌させることがあります。
・有観客での試合、公演、集会などは原則として認められません。

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