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吉田寮めぐり教員有志が声明 「自治寮解体が真意」と当局を批判

2019.02.16

吉田寮生の退去をめぐり、京大当局が提示する条件をのんだ寮生のみ新棟居住を認めるとする新方針を受け、2月14日、教員有志が緊急アピールを発表した。寮生による入寮募集を廃止することなどの条件について、寮生の安全確保でなく自治寮の解体が大学当局の本当の狙いであり、自治寮解体の容認または強制退去という二者択一の「踏絵」を寮生に迫るのは不当な権力行使だと批判する内容だ。あわせて、吉田寮自治会との対話再開や自治寮としての運営継続に向けて、教授会の審議を踏まえた学内合意形成を図るよう山極寿一総長に要求している。教員有志は今後、アピールへの賛同を募った上で、山極総長への申し入れを行うという。

京大当局は2017年12月以来、築100年を超える現棟の老朽化を理由に、2015年竣工の新棟居住者を含めた全寮生の退去を求めていた。現棟だけでなく新棟も退去の対象とする理由について、当局は当時、各寮生が現棟と新棟のどちらに住んでいるのか不明なためとしていた。その後、吉田寮自治会は現棟と新棟の居住を区別した寮生名簿を提出している。しかし当局は、その名簿を信用できないとして、新棟からも退去を求める態度を固持していた。(2017年12月までの経緯は本紙2018年1月16日号「緊急特集:吉田寮退去の「基本方針」を検証する」で解説している。)

今年2月12日、当局は現棟とその周辺を立ち入り禁止とする一方、新棟については態度を変え、寮生による入寮募集を行わないなど6つの条件を受け入れた寮生のみ新棟への居住を認める新方針を発表した。今回の緊急アピールに携わった教員有志は元々、1月17日の占有移転禁止の仮処分について議論していたという。しかし、その最中で新方針が発表されたことから、急遽アピールを発表するに至った。

発表されたアピールでは、従来の新棟も含めた退去方針について、当局は説得力のある理由を説明してこなかったと述べている。また、安全確保が理由であるなら当然であるはずの新棟居住に条件をつける新方針に疑問を感じるとした上で、大学当局の本当の狙いは寮生の安全確保でなく、自治寮としての性格を解体することにあると表明した。

昨年8月に開かれた「交渉」のなかで、吉田寮自治会が入寮募集を続けることについて川添信介・厚生補導担当副学長は怒声を上げて非難し、その発言について「恫喝と取っていい」と言明した。この「恫喝」について教員有志のアピールでは、力関係を不当に利用して学生の修学環境を害する「ハラスメント」に当たるおそれがあると指摘している。新棟居住に条件をつけることで、自治寮解体の容認または強制退去という二者択一を寮生に迫る大学当局の新方針についても、不当な権力行使だと批判している。

こうした批判を踏まえ、アピールではさらに山極総長に対し、現棟周辺の立ち入り禁止処分の撤回や、教授会の審議を踏まえた学内合意形成を図ることを求めている。また、現在の執行部方針に代わる合意形成の方向性として、▼中断中の吉田寮自治会との対話を再開させること▼全寮生退去の方針を見直すこと▼新棟の継続利用と自治寮としての慣行を認めること▼現棟の耐震化を含む今後の利用法について吉田寮自治会と協議すること、の4点を掲げている。

アピール発表の同日開かれた記者会見にて、呼びかけ人の一人である駒込武・教育学研究科教授は、安全確保のために吉田寮生の退去が必要だという話が2107年12月にあった以外には、吉田寮をめぐる情報が教授会に降りてきていないことを明かした。教授会の審議を踏まえずに大学執行部が方針を決めている吉田寮の問題は、トップダウン式の意思決定が拡大し、教授会が扱う問題の幅が縮小された近年の状況を象徴していると語り、学生の生活に関わる問題というだけでなく、大学自治・教授会自治に関わる問題でもあると強調した。そうした観点から教員有志の主体を各部局教授会の構成員(教授、准教授、講師)としたという。

教員有志は現在、Web上でアピールへの賛同を募っている。主に教授会構成員に向けて呼びかけているが、その他の教職員・学生や一般市民も賛同できる。今後、賛同を集約した上でアピール内容を山極総長に申し入れるという。

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